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BL Land「2014 Valentine」Tour{増刊特集}
はんぶんこ① by.高瀬結衣
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◇はんぶんこ◇
遠目から見ても年季を感じる薄茶色の2階建てアパートが2棟、地味に仲良く並んでいる。
日の暮れた空に足音を響かせながら、正木晃は所々塗装が剥がれ錆色を覗かせる古びた階段をゆっくりと上がり、東側奥の扉の前まで辿り着くとハアとひとつ息を吐き、コートのポケットから銀色の鍵を取り出した。
吐いた息は白く、しんと冷えた空気に溶けていく。
「寒みぃ……」
独りごちながら扉を開ければ、真っ暗な玄関に出迎えられた。とはいえ正木家ではこれが当たり前の事で、あと数日で高校受験を控える晃を気遣い部屋を暖かくして待っていてくれる家族は居ない。両親が離婚したのは記憶も微かな幼少時代で、それからずっとこのアパートで母親と2人暮らしだ。母親は駅前でスナックを経営している。晃にとって1人の夜は当たり前で、1人の夕食も当たり前。どんなに忙しくても仕事前に必ず夕飯を用意して出て行く母親へ感謝の気持ちを込めて、帰宅後まず台所と居間の掃除を日課にしている事は、やんちゃな地元仲間には絶対に秘密だ。
ただ1人を除いて。
シンクの中に置かれた食器を洗っていると、ピンポンと安いチャイムの音が静かな部屋に響いた。勝手に入れと声をかけるまでもなく、ガチャリと扉の開く音が聞こえ、同時に予想通りの顔がひょこりと視界に入る。
「晃、お帰り。俺もカレー食う」
浅黒い肌に真っ黒な瞳が良く似合う、よく知った顔はニッと笑った。
「なんで今日カレーって知ってんだよ?」
「朝、ゴミ捨ての時におばちゃんに会ったから。今日はカレー作ったよって。母ちゃんが今日仕事遅いって聞いてたみたい」
おばちゃんからバレンタインチョコも貰ったと話しながら嬉しそうな顔で晃の隣に並び、コンロの上に置かれた鍋の蓋を開けると、これまた嬉しそうに頬をほころばせた。
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