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BL Land「2014 Valentine」Tour{増刊特集}
マラソンショコラ①by.Kuro
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幼馴染・社会人・執着愛・美形×鈍感平凡
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バレンタインデーは憂鬱だ。
「あなたはモテない人間です」などと、
改めて実感させなくてもいいじゃないか。
人生は理不尽で、苦しみに満ちている。
早く今日が終わればいい。
早く人生自体が終わればいい。
こんな消化試合みたいな毎日いらない。
僕は基本的にテンションが低い。
やる気なんて一度も出たことがない。
走ることが嫌いなのにマラソンしている感じの毎日。
いい加減、歩きたいんだ僕は。
「原田君これ」
パソコン作業に没頭していると突然声を掛けられた。
キャラクターの描かれた空き缶に土産物みたく並んだチョコレート。
白いリボンがあちらこちらと揺れている。
僕の思考もあちらこちら…
固まっていると、長い沈黙に耐えかねたのか同期の阪木さんが、
僕にセロファンとリボンで包まれた3粒のチョコレートを手渡した。
「これ、どーぞ」
「あ…ありがとうございます」
と頭を下げて受け取る。
阪木さんの作り笑顔に「義理です」と書いてある。
阪木さんは「いえいえ」と軽く言うと隣のデスクの堂島さんに同じように箱を差し出した。
出張帰りや休暇明けの土産配りみたいなノリのバレンタイン。
それでも僕はイベント事が苦手だ。
堂島さんのように「これはもしかして本命!?」なんてテンション高くふざけられない。
阪木さんが笑顔で「ざんねーん!ごめんなさーい!」と返して部署内は笑いが起こる。
笑ったほうがいいのか、僕。
いや完全に乗り遅れたじゃないか。
ああ、また「原田さんって何か暗いよね」と言われるのか。
でも無理に楽しそうにするなんて苦痛だ。
辛い。
誰だ、人生はチョコレートとか言ったやつ。
ちっとも甘くない。
もしチョコなら絶対カカオ100%だろ。
こんな時、毎日生きているのが楽しくて仕方ない感じの秦君を思い出す。
あいつは今日も笑顔の大安売りをしているのだろうか。
学生時代からモテてモテて。
「俺、甘いもの苦手なんだよ」ともらったチョコを僕に押し付ける極悪非道なやつだ。
部長の娘からもらったピンク色の紙袋に義理チョコを入れて帰宅の準備をする。
ホワイトデーのお返しを想像して、さらに憂鬱になる。
有名なパティスリーでないと女子が「やっぱり原田さんはコンビニだったね」と言いそうだ。
バレンタインもホワイトデーもなくなればいい。
やはりお中元とかお歳暮のほうがわかりやすい。
関係性で明確にされた値段設定。
ハムとかカルピスとか決めて毎年同じものを送る人になりたい。
どうでもいいことを考えていると家に着いた。
オートロックを解除する時に思い出す。
秦君に荷物の受け取りをお願いされていた。
アイツ隣に住んでいるんだよな。
見目麗しき容貌を武器にメディアなんかに出ているらしい。
何をしているのか詳しくは知らないがけっこうな頻度で帰宅が深夜を過ぎるのだ。
コンシェルジュがいる時間に僕が荷物を受け取り部屋へ置いておくこともしばしば。
郵便受けを確認した後、数通の手紙とコンシェルジュから小包を受けとり秦君の部屋へ向かう。
鍵を開ける。
僕の部屋の3倍以上広い角部屋が秦君ちだ。
稼ぎの違いだな。
片付いた生活感のないリビングへギフト包装した『いかにも』な小包を置く。
花屋がこれから来るらしいので20時まで秦君の部屋にいなくてはいけない。
冷蔵庫からビールを取り出し、勝手に飲む。
沈み込む座り心地の良いソファに埋もれ、テレビをぼんやりと見ていた。
空腹を覚え、秦君のキッチンを物色したが海外の土産らしき奇抜な色のパスタくらいしかなかった。
システムキッチンを汚したくなくてソファへ戻る。
ピンク色の紙袋が目に入る。
そうだ、チョコ…
ビールと合わないけれども。
ひっくり返して食べる。
普通のチョコレートだ。
甘さが虚しい。
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