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物心ついた時から、周囲に嫌というほど聞かされていた。
〈空気が読めない〉
〈運がない〉
〈はずれくじばっかり引く〉
説教を聞くたびに小さな彼は、全て自分が悪いのか、と言わんばかりにぷくぅっと両頬を膨らますのだった。
道路沿いのファミレス。…住宅同士に挟まれ、L字の駐車場を持つ店内。ある一つのテーブル席では男二人が向かい合って座っていた。その場には、他とは違うピリピリとした緊張感が漂っている。
「…榎野(エノ)。付き合うって話、断る。」
短く刈り上げた茶髪に、パッチリした二重の黒い瞳。身長は百六十前か。着ているのは、赤いフード付きパーカーにポイズンピンクのラインが入った黒いジャージズボン。
顔立ちからすると二十歳前後か。しかし、容姿のセイでまだ高校生料金で映画館に入っても止められそうにない男は露骨に不満そうな表情を浮かべている。
「なぜですか、楠田(クスダ)先輩。」
一方、対峙している、“榎野”と呼ばれた男は悠々とした仕草で卓上に置いた指を組む。…テーブル席から二つ横の女子高校生四人組の客から黄色い声が聞こえてきた。
“楠田先輩”と呼ばれた男は、卓上に頬杖をついてから目前に座っている相手をまじまじと眺めた。女子高校生四人組が興奮するのも無理はない。
亜麻色に染め、肩まで伸びた男の髪はきちんと切り揃えられている。怜悧な漆の双眸。太陽光を浴びずに今まで生きてきたのか、と考えてしまうくらい蝋のように白い肌。周りからは、よくクールビューティーと評される。おまけに長身だ。今だって、ソファーに座っている彼は無理矢理身体をふたつ折りにしているみたいに見える。
白馬の王子が身に纏うのは、白のセーターに鮮やかな淡い緑のカーディガン。足の細さが際立つベージュのパンツは女性用にも見える。全身をパステルカラーに包んだ姿は、男性向けファッション誌に“モテコーデ”の特集記事トップを飾るに相応しい。
まるで、御伽噺に登用する王子のようだ。しなやかな肉体に、甘いマスク。…女性にとっては目の保養。野郎にとっては目の敵。
甲高い歓声を聞いた、楠田は片眉を顰め、いかにも厳しい面を作る。
「…なぜだと??」
楠田はすっくとその場から立ち上がり、目の前の端整な顔に人差し指を突きつける。
「決まっているんだろ!!一つ、俺達は野郎同士だ!!」
二つ、と言いながら楠田はゆっくりと中指を持ち上げた。
「俺が個人的にお前を嫌いだから!!…お前、サークル見学ン時に俺様の至高のギターを“下手くそ”だっつってバカにしただろ!!」
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