アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
29
-
徐々にリズムを刻んでくるので、先輩は根負けして吹き出す。
「楠田さん…。」
今度は幾分か声を和らげて、榎野は少し浮き上がった先輩の顎の下に手を敷く。首筋から顎の先にかけて緩急をつけて撫でると、本人は双眸を眇め、擽ったそうに頭を横に振る。
「楠田さんってば。」
それでも懲りずに顎を撫でていると、どうやら彼はムッとしたらしい。楠田は顔を持ち上げる。制止しようとして、ぱかっと開いた口に、榎野はタイミングを逃さず、唇を重ねる。榎野は片手にメニュー表を壁の如く掲げていたので店内の客に男同士のキスは見えなかっただろう。二つの唇が離れ離れになると、すかさず楠田は片手で口元を覆う。榎野は相手の林檎色の頬に齧り付いてしまいたい欲求を堪える。
「嫌でしたか??…でも、楠田さんが俺と喋ってくれないから。」
「死ね。」
一端、卓上にメニュー表を開き、榎野は会話を再開する。
「楠田さん、俺のキスは下手でしたか。」
「死んで。」
榎野は折れずに質問を続ける。
「楠田さん、俺が相手だから嫌なんですか。」
「いっぺん死のう。」
へこたれない榎野。
「楠田さん、俺とチューするの好きになりそうな確率はいかほどですか。」
「いい加減、死んでくれ…。」
怒りに肩を震わせる先輩に、榎野は再び、彼の名前を呼ぶ。
「楠田さん。」
楠田は卓上を叩く。
「…なんだよっ!!」
「俺は、あなたが好きです。…あと、飯は何食いますか。」
「…カルボ。」
空腹には打ち勝てない楠田だった。
数分後。榎野は一人の女性店員を呼び止め、注文する。会計のメモを置いた店員は、楠田の足元に横たわる、ワインレッドのギターケースを見て、どこからか布でできた四角いカゴを持ってくる。
「お客様、お荷物はこちらに…。」
「ああ、はい。すいません…。」
楠田は愛想よく対応したものの、店員が遠ざかると下唇を突き出す。
「…“お荷物”。」
先輩の冷めた目つきに、榎野は微苦笑を返す。
_
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
29 / 69