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「仕方ありませんよ。世間一般からすれば、彼女の認識があっていると大勢が支持する。」
楠田は小さな溜息をついて、卓上に視線を落とす。
「…楽器は、俺の一部なのに。」
想い人の台詞を耳にして、榎野は荷物かごに収められたギターケースに目をやる。
「楠田さん、はギター大事にされていますよね。ピカピカで、手入れもよく行き届いている。」
滅多に聞けないであろう後輩の褒め言葉に、気をよくした楠田は自然と口が軽くなる。
「だろぉ~??けど、コレは俺が中学二年ン時にバイトで貯めた金、全部つぎ込んで買ったヤツさ。」
ギターについて語る先輩の目は、星の如く眩い。…だからこそ、後輩は膝の上に置いていた両手を、気取られぬようそっと拳にした。
楠田の話は、終わらない。
「ある日さ~、テレビを見ていたんだよ。今よりちょっと前、夏休み直前でな??テレビの歌番組に出ていたギタリストがさ、楽器を抱いてこう、派手に弾き鳴らすんだよな。こう、ギュギュギュギュ、ギュイ~ンッ!!ってな感じで。」
まるで目前に、憧れのギタリストがいるみたいに臨場感溢れる表情の楠田。
「えっとさ…。あの、あるだろ、あれっ!!演奏が終わった時、ギターは独特な音で鳴くんだよ。また震える弦を力任せに止めちまう、“ギッ”って音。詳しくはわからねーけど、当時から俺はあの音がもうたまらなく好きでさ。で、あの日、息もつかせないギターを掻き鳴らした人が、“ギッ”って楽器を鳴かした瞬間、俺は悟ったんだよ。『これは俺が弾く楽器だ!!』って!!」
鼻息荒く、楠田は捲し立てる。
「“Have to”じゃねぇ、”Must”だったんだよ!!」
口角から唾を飛ばす勢いを楠田が緩めるのと、店員が注文の品をテーブルに届けに来たのはほぼ同時だった。
テーブルに届けに来たのは、ほぼ同時だった。
レストランはイタリア料理メインの店だったので、それぞれ先輩はカルボナーラ。後輩はペペロンチーノを頼んだ。
二人は行儀よく手を合わせた後で、各々のパスタに舌鼓を打つ。榎野はちらりと想い人を盗み見る。口いっぱいにパスタを頬張る楠田は、大人気ない上に下品で…ほっぺについたベーコンの切れ端を拭き取ってあげたくなる。
不意に悪戯心が頭を擡げ、榎野はフォークで一口分のパスタをすくい、先輩の眼前に差し出す。
「楠田さん。はい、”あ~ん”。」
一瞬フリーズする楠田だったが、すぐさま状況を理解し、相手のフォークを無視して、残りのパスタを掻き込み出す。
榎野はつれない反応に難色を示しかけ、即座に思い直す。
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