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下旬になると、榎野の携帯に想い人からの連絡が入った。何でも、リサイタルが成功したから祝賀会としての飲み会を行うという。お前も来いよ、と誘われたが、榎野は辞退した。瑠璃条との舞台を終えた楠田とどんな顔で会っていいか、わからなかった。
数日後。リサイタルでお世話になったと差し入れの菓子を持ってきた瑠璃条に、強制的に音楽室近くの空き教室に連れ込まれた榎野は、予期せぬ説教をくらった。
「このすっとこどっこい!!まだ楠田チャンに告白してないの!?」
開口一番の罵倒に、榎野は咄嗟に怯んだ。
「く、楠田チャンって…。」
忠告二度目だけど相手三年…と指摘する榎野に、瑠璃条は問答無用とばかりに叱りつける。
「もう~!!何モタクサしてんのよ、このノロマッ!!チンタラやっていたら、楠田チャン卒業しちゃうわよ!?どう考えたって、あのオツムで院生を目指すわけないでしょう!?本人に直接訊いてみたら、就職って即答だったわよ!!どうすんの!?」
両拳をぶんぶん上下に振り回す瑠璃条に、榎野は呆れ顔を浮かべる。
「…っていうか、何でお前が俺と先輩の関係を気にするんだ…??」
当然の問いかけに、瑠璃条は答える。
「渡りに船、一期一会、袖触れ合うも他生の縁…。通りすがりのお節介よ。いいこと??世の女子は甘いスイーツと恋バナに目がないもんなの!!」
力説する瑠璃条を、榎野は両手で制する。
「あ~…。わかった、わかった。…けど、残念ながら手遅れだ。俺はもう…楠田さんから手を引くって決めたんだ。」
数秒絶句した瑠璃条は、しぱんっと言い放つ。
「この腑抜けッ!!」
「ふ、ふぬ…っ!?」
生まれてこの方、女子に『腑抜け』呼ばわりされた経験がない榎野が、衝撃に言葉をなくしている内に、瑠璃条は容赦なく責め立てる。
「どうせアンタのことだから、また”俺はまだ先輩とセッションできる腕前じゃないから~”とか手緩いアホ抜かしているんでしょう??」
本当に音楽のことがわかっていないのね、と瑠璃条は腕を組み、フンと鼻を鳴らす。
「セッションに腕なんて関係ないわよ。この際、思い切って楠田チャンに誘いかけてみれば??あのお人好しなら、多忙の隙を縫ってでもかわいい後輩の頼みを聞いてくれるかもよ??」
「けど…。俺は、俺は…。楠田さんみたいに、ドラムを叩けない。」
なに常識ぶっこいてんのよ、と瑠璃条は物知り顔で呆れる。
「ドラム経験一年にも満たないぺいぺいのぺいが、四年目突入の手練と肩を並べられたら、誰も苦労なんてしないわよ。…それに、楠田チャンのギターはあのバッカみたいに自分に素直な特質から奏でられるものよ。人間関係が不得手で無口な王子面をのうのうと演じ続けてきたアンタにゃ、真似事だってできないでしょうよ。」
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