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怪訝な顔をする榎野に、電話相手は内容の詳細を語りだす。
『佐々先輩が豹変しちゃったのは、まだ内定を貰えていないからなの。佐々元部長、勉強や音楽に優れているのに、どうしてか企業にはフラレまくりみたい。』
痺れを切らし、後輩は口を挟む。
「…で、なんでバンドメンバーの暴行に繋がるんだ。」
話の先を促す榎野に、瑠璃条はあっさりと返す。
『ただの八つ当たり。』
「八つ当たりだと??」
気色ばむ榎野は、自身の携帯を握り直す。…注意していないと、危うく手にしているものを握りつぶしてしまいそうだ。
『そう。…他のメンバー達はもう、全員内定をもらっているからね。本人としては、”お前ら同じように好き勝手してきた癖になんで俺より早く進路が決まっているんだ”ってところかしらね。…特に、最初に内定をもらった楠田チャンには、風当たりが強いみたい。』
「佐々を物理で静粛する以外に、止める方法は??」
発言する榎野の目は、完全にすわっている。
『う~ん…。実は、難しいのよね。本来なら、こういう事態は顧問に連絡をとるのが常だけど。このリサイタルの件は、佐々元部長が個人的に請け負ったって聞いたから。』
「…つまり。立件自体が難しいと??」
『まぁ、そうなるわね。』
礼もそこそこに、榎野は携帯の通話を切る。やや間を置いて。いてもたってもいられない榎野は、直接心配になった先輩の連絡先にかけた。しかし、予想通りの留守電に切り替わってしまう。榎野は、仕方なく彼の携帯に伝言を残す。
「もしもし、楠田さんですか??俺、榎野です。今日、練習が終わったら…その、少しでも会えませんか??二人きりで、話したいことがあるんです…。」
女心と秋の空。季節は冬だが、榎野が諺を思い出すくらい、その日の天気はコロコロと移り変わった。午前中の晴れが嘘のように、正午を過ぎるとバケツを引っ繰り返したような雨が大地を濡らす。
大学の授業が終わったので、榎野はひとまず自宅に戻って、気もそぞろなまま、雑誌に目を通していた。あと数ページで読み終える頃。玄関のチャイムが鳴る。
「…。」
榎野は何気なく、身近な床にほうっておいた携帯の画面を眺める。時刻は『15:21』と表示されている。郵便だろうか、と立ち上がって、家主は玄関へと進む。
「はーい、どちらさまで…。」
ドアノブに手をかけ、扉を開くと、そこには全身ぐっしょりと濡れた、年上の男が立っていた。
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