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第五小節まで、榎野は年上の男を様子見していた。だが、第六小節からは特技の調子を合わせる演奏で彼の音楽についていく。彼独自のギターの音を支え、良さを前面に引き出す。
長いようで短い、たった一曲のセッションだった。弾き終わると、二人は両腕をだらんと下ろし、頭を垂れる。…榎野の心は、充足感に満ちていた。
楠田は佐々の横暴にすっかり自信を奪われているだろう。だからこそ、榎野のドラムの出番だ。心地よくギターを弾ききった楠田は、今度こそ後輩の胸に飛び込み、心を開く…予定であった。
「…汗、かいちまったから、シャワー借りていいか??」
小首を傾げて訊いてくる楠田の声が、げんなりしているように聞こえたのは後輩の気のせいか。
「あと、熱くて濃いコーヒーが欲しい。…一人じゃ気まずいし、お前も飲めよ。」
楠田に言われ、後輩は素直に頭を縦に振る。ちょっとワガママだな、と榎野は思ったものの、そこはベッドイン直前の身。楠田の機嫌を損ねられては困る。と、むしろほくほくした気分で、榎野はコーヒーを淹れた。
シャワーを浴びた楠田は、後輩に借りた服を着て、ダイニングに出てくる。…が、後輩は彼の姿に思わず両手に持っていた二人分のコーヒーカップを落としかける。
「く…っ、楠田さん!?」
「はん??」
榎野が素っ頓狂な声をあげるのも無理はない。なにせ楠田は、後輩のTシャツ一枚だけを羽織って脱衣所から出てきたのだ。
「なんちゅう格好をしているんですか!?」
「え??…ああ、これか。」
胸部の布地を摘んで、ほんの少し上に引っ張る楠田。
「お前の服、どれもでっけーんだもん。Tシャツ一枚で十分。」
楠田が動く度、ワンピースの裾みたいにヒラヒラと宙に靡くシャツを、後輩はまんざらでもない表情で凝視する。
「…っつか、コーヒーは??」
「…ああ、はい。これ。」
榎野が差し出すと、相手はサンキュ、と答えて受け取る。続けて、楠田は後輩を試すようにシャツの裾を大胆にたくし上げる。
「見る??…シャツの下。」
「!?…みっ、見ません!!」
榎野は急いで顔を背ける。…そこまで下心丸出しの男と思われたくない。微妙な男心だ。
「ふぅん…。そっか。じゃっ、このコーヒーを飲み終わったら、お前の寝室を見せてよ。」
「…ええ、いいですよ。」
いよいよか、と考え、榎野はカップを傾け、コーヒーを口に含む。
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