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「え??いや、だからって…。」
後輩は、呆けている楠田の両肩を引っ掴み、多少荒っぽくベッドに組み伏せる。
「あ??わわ…っ」
慌てふためく想い人の身体に覆いかぶさり、榎野は目と鼻の先まで顔を急接近させて、柔らかく囁く。
「その論理で俺が御伽噺の王子なら、相手はあなたですよ、楠田さん。」
王子の求婚を袖にする相手など聞いた試しがありませんよ、と榎野はさらっと告げる。年上の男は目を白黒させ、助けを求めるものがないか辺りをキョロキョロする。…後輩は楠田の顎を掴み上げ、固定して再び質問する。
「…どこを見ているんですか、楠田さん。よそ見はなしです。…ずっと俺だけを見ていて。」
「待って、って…。ちょっと、考えさせてくれよ…っ」
意地悪王子はしれっとする。
「俺、この一年じぃ~っくりあなたの返事を待ちましたけど。もう限界です。さぁ、観念して俺を好きって言って下さい。」
「う゛。」
楠田はすっかり困り果て、目をうるうるさせ、相手を見つめ返す。榎野があ~、もう食っちゃうかなこの人…と思いかけた時だった。
「す、き…だっ!!」
意地っ張りな楠田はそれだけ言うと、年下の男をぎゅっと抱きしめてくる。
(この人、天使だろ…。)
内心嬉し泣きをしながら、榎野は涼しい表情で年上の男をそっと抱き返した…。
あれから、ほぼ一ヶ月が経過した。
桜が開花した某所マンションの三階。満開の桜が眺められるとある一室の昼下がり。引越しのダンボールに頬杖をつき、室内の窓から桜を鑑賞していた一人の男がいた。
『ギター』と黒のマジックで書きなぐられたダンボールを机代わりにしている細身の男は、別室から声をかけられて、上半身だけ振り向く。
「はぁ~い??」
「はぁい、じゃないでしょう、楠田さん。」
現れたのは、容姿端麗の王子みたいな男だった。楠田はぷくぅと頬を膨らます。
「榎野、また敬語を使っている~…。」
「あなたと話す時の、癖になっているんですよ。」
その内抜けますから、と微苦笑して、榎野は恋人の隣に腰掛ける。何を見ているんですか、と質問してくる相手に、楠田は瞳を眇めて答える。
「…桜。」
榎野は年上の男の視線を追いかけて、ああと口元を綻ばせる。
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