アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
本編
-
体育祭が終わった。
僕はどこかのクラスの担任じゃないので、勝ったとか負けたとかは関係ない。
だからなのか、今日は僕が鍵当番。
校舎の中を、順番に見て回る。
今日は部活禁止だし、疲れてみんな帰っているだろうけれど。
…あれ?
…誰か、いる?
1年2組の教室、窓際の席に座っているのは、原田圭斗くんだ。
彼は、古典が苦手で補習常連だけど…何事にも一生懸命だから、応援したくなる。
成績優良ではないけれど、良い生徒である。
よし。
今日は疲れてるだろうし、もう帰ってゆっくり休んで下さいね。
…そう、言おうとした。
彼の頬に涙が伝っていることに気づき、止まる。
…そっか。
原田くんは、体育祭の練習も全力だった。
だから、2組が惜敗したことが悔しいんだ…。
彼の視線は間違いなく、あの席からよく見えるであろうグラウンドに注がれていた。
つい数時間前まで、彼が全力をかけた熱い戦いが繰り広げられていたグラウンドに。
1年2組の教室は最後にもう一度見ることにし、他の場所を巡回した。
あのどこか憂いを帯びたような横顔と、夕暮れの淡いオレンジの光に反射してキラリと光った涙の筋…ひどく、綺麗だった。
…なんでだろう、こんな風に思えてしまうのは。
全力を注いで流す涙は綺麗なのだろうか。
…いや、違う。
久々のこの感じ。
僕は、きっと彼に、惹かれてしまっている…。
陸奥(みちのく)の しのぶもぢずり 誰ゆえに 乱れそめにし 我ならなくに
そんな有名な和歌が、ふと頭をよぎった。
叶うはずがない。
なぜなら、僕たちは先生と生徒だ。
それに、原田くんは男になんか興味ないだろう。
これは、忍ぶべき恋。
そう思って、なるべく気にしないようにすると決めた。
そのときはまだ知らなかったのだから。
彼も、僕を好いていてくれることを。
Fin.
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 2