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28、
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トントン、と控えめなノックが部屋に響いた。
「真くん、私よ、入ってもいいかしら?」
名前を名乗ってもらわなくてもその声の主がりっちゃんだと言うことは分かった。
でも、泣き腫らした目を、くちゃくちゃな顔を見せるわけもいかず返事もせずに布団の中にくるまった。
布団の中は篠田さんの匂いが香って、また胸が締め付けられる。
入るわよ、とりっちゃんはゆっくりドアを開けた。
本来、ここは篠田さんの部屋なのだから俺に良いも悪いも言える権限はない。
声を押し殺して泣いているとぽふ、と布団の上から優しく手を乗っけられた。
暖かさなんて分からないのにりっちゃんの手は暖かく感じて、余計涙は止まってくれない。
「空から聞いたわ、襲われたそうね…?
この際だから話すけれど、篠田組はこの辺で一番の力と権力を持っているの。
篠田組に恨みを持っている人も多いわ。
だからね、勝手に外に出たりしたら私達、真くんを守れないの、」
優しく、優しく説明してくれて、初めて篠田組がそこまで大きいことも、恨まれていることも知った。
だけど、今日の事は外は関係ない。
中の人のこと。
でももし話してしまえば篠田さんやりっちゃんは俺を信じてくれるのか。
怖かった。信じられないことも、呆れられることも、捨てられることも。
でも、篠田さんに伝えなければ、りっちゃんと俺だけの秘密にしてしまえば俺も、篠田さんも、苦しくなることはないんじゃ…
すごくいい案だと思う。
「りっちゃん…俺が話すこと、篠田さんには内緒にしてくれない、ですか…」
隠し事をする、その事に対しても胸が痛い。どうしてこんなに痛がらないといけないのだろう。
布団に潜ったまま枕をぎゅうっと抱きしめる。
「…いいわ、約束する。だから何でも話してちょうだい」
りっちゃんなら、信用できる。
だから俺は洗いざらい話した。
りっちゃんのところへ向かおうとしたこと。
式波さんにこの跡を付けられたこと。
捨てられると言われたこと。
それがたまらなく怖いこと。
話すと、心がスーッと軽くなっていって、涙も止まった。
「月希が…あいつ、まだ空を溺愛してんのか…最近は大人しいと思ってたのに…」
「…できあいって?」
まともな教育を受けてこなかった分、難しい単語はまだ分からない。
「溺れるほど愛してるってことよ。
月希はね、真くんと同じ、空に拾われた子なの。
流石に家に住まわすなんて事はしなかったからそう考えると真くんは空に大切にされてるのね …」
えっ、と驚いて布団から顔を出す。
式波さんが俺と同じ…?
「まぁ、月希は虐待…親にいじめられててね、
うちに借金した親んとこに取り立てに行った時に見つけて、お金の代わりに月希を持ち帰ってきたのよ。
何年も前…それこそ、空が組長になる前の話だからこそ、出逢えたんだけれどね、あのふたりは。
自分を助けてくれた人だからかしらね、月希は空を異常なまでに愛してんのよ…」
その時を思い出しているのかりっちゃんは遠い目をして俺に教えてくれた。
式波さんの事は許せないし好きになれないけれど、親近感が湧く。
好き…愛してる…、
人は抱いて当然な気持ちだと思う。
でも俺はその気持ちがわからない。
あれ、俺が篠田さんに対する感情は一体なんだろう?
篠田さんの事はもちろん嫌いなんかじゃない。
でも、好きってもっと…少なくてもこんなに苦しくはないんじゃないかな。
「ねぇ、りっちゃん、
例えば、例えばだよ、?
ある人の言葉一つで嬉しくなったり、悲しくなったり…胸が痛くなったり。
そう思う感情って、なんて言うのか知ってる、?」
自分でも自分がわからないから人に説明するのにも苦労した。
一生懸命自分の知る全ての言葉から適切な言葉を選んで、伝えるとりっちゃんは、少し驚いたような顔をして、それからふんわり笑って
「それは愛してるって事よ」
なんて言った。
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