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47、
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篠田さんが出ていってしまって数時間が経った。
でまえって何か聞き忘れてしまったまま。
でも篠田さんが居ないと、帰ってこないと分かっている今はなにかしようという気は一切湧いてこなかった。
昼過ぎ。
全くお腹なんて空いてこない。
でもやることもないからいつかのように部屋の隅っこに座ってぼーっとする。
世界の時間が止まっているようで、
自分だけ時間に置いてかれたようで、
早く早くと篠田さんの帰りを早くも願ってる。
帰ってくるとわかってる時はこんな風にならないのに、帰ってこないとわかるとすぐ会いたくなってしまう。
篠田さんはここを自分の家だと思えばいいと言ってくれた。
こんな素敵な家は初めてだから、とても嬉しかった。
でも、一番は篠田さんがいたからだ。
例え家じゃなくても、何も無い荒地だったとしても、篠田さんがいたら俺はそれでいい。
地獄でも天国でも、この世じゃなくてもいい。
それくらいずっと一緒にいたい。
だから、早く帰ってこないかなぁ…
膝に顔を埋めてさっきから同じことを考えている。
すると、
ピンポーン
と、普段そんなには鳴らされないチャイムがなった。
宅配かもしれない、けど、あの人だったら。
そう思うとドアを開けに行く気なんて起きなかった。
ピンポーン、ピンポーン。
連続して鳴らされるチャイム。
明らかに宅配なんかじゃない。
怖い、怖い怖い怖い!
目を瞑って早く去っていくのを待つ。
早くどっかいって…!
そんな願いも虚しく、外から男の人の声が聞こえたかと思えば、
カチャリ、って鍵を開けて扉を開ける音が聞こえてきた。
足音が近付いてくる。
なんで、入って…
怖くて怖くて仕方ない。
とうとうリビングのドアまで開けられたみたいだ。
目なんて何かで貼り付けられたかのように開けられない、固く閉ざされている。
「あの…」
声を掛けられて触れられてもないのにビクって身体が不自然に跳ねる。
完全にパニック状態だ。
「ちょっ、
大丈夫ですか、?」
ぽん、と肩を叩かれてもうダメだと思った。
「…な…で…」
「え、なんて…? 」
「触らないでっ、、やだ、篠田さんっ、、怖い…っ!!」
半ば叫ぶようにしてもうこれ以上縮ませられない体を更に縮めさせる。
どうしよう、こんな、口の利き方したら、殴られる…っ!
もう、どうしたらいいのか分からなくなって涙が瀧のように流れ落ちる。
でも、その人は殴る気配なんてなくて、
「あ、ごめん…、もう触らないから落ち着いて…?
その、篠田さんって人から頼まれてここに来たんです。
僕は波谷 華 (なみや はな)。
女みたいな名前ですよね」
自己紹介をしてきて、更に耳を疑うような事を言った。
篠田さんに頼まれた…?
恐る恐る顔を上げてその人を見てみる。
波谷って、確か組に居た四季さんと同じ苗字だ。
それに、どことなく四季さんに似てる気がしなくもない…?
「…何も、しない、?」
「しません。」
「じゃあ、もっと離れて」
篠田さん以外は近づかないでほしい。
まだ完全に信用できてないけど、篠田さんの名前が出たら俺はどうしたらいいのか余計わからないから下手なことは言えない。
波谷さんは言った通り1、2mくらい離れてくれた。
「怖がらせてごめんね、?」
「何の、用。」
まだ怖くて声が震える。
この人がどんな人かなんて知らない。
そんな人が同じ空間に、大切な俺の居場所にいるのが許せない。
安心できる場所が一気に失ってしまったみたいだ。
「君のお世話をしに、ですかね。」
「そんなの、いらないっ!
俺は大丈夫だからっ!!」
早く帰って!!
そう言おうとして波谷さんが困っている表情をしてる事に気づいた。
んぐ、と口を閉ざしてしまう。
「帰ったら兄さんに怒られちゃいます…
それに、篠田さんも兄さんも力翔さんも、みんな心配して俺に頼んできたんだと思うんです、受け入れろとはまだ言いませんが、ここにいさせてもらえませんか…?」
兄さん…波谷四季さんの方だろうか。
組に関係してることは本当で信用してもいいのかもしれない。
でも、決定的な証拠はないし…
「あ、ちょっと待っててくださいね、
携帯番号貰ったんですよねぇ…」
えぇっと…と言いながら携帯電話を操作し始める波谷さん。
ぷるるるる、とコール音が鳴って誰かに電話をかけているらしい。
「あ、華です、はい、ちょっと代わりたいんですが今お時間…分かりました、代わりますね」
少し話した波谷さんは今度は俺に携帯電話を渡してきた。
誰かわからないから怖い。
でも、電話なら喋らなきゃいいだけだ…
そう思ってゆっくり耳に当てて音を聞きとる。
『あ、真か?』
聞こえてきたのは篠田さんの声で。
『篠田さん!! 』
たった一言でも篠田さんの声を聞けたからかさっきまでの恐怖が消え去って篠田さんの事しかまた考えられなくなる。
『華って奴、いい奴だろ?安心して任せていい。
四季の弟なんだとよ。
似てたか?俺はまだ会ってねぇんだよ、写真を少し見たくらいでハッキリとはわかんなくてな』
「ちょっと、似てる…、
わかった、信用するから、早く帰ってきてね…」
『頑張るよ、
それと、香水付けとけよ、
離れてても繋がってるとか思えるだろ?俺もつけてる』
香水…ラベンダーの。
離れてても…
言われた事が物凄く嬉しくてわかった!!と元気よく答えると電話が切れてしまって寂しくなった。
でも、急いで携帯を波谷さんに返して、寝室へと走った。
しゅっ、と香水を吹き付けてラベンダーの香り、篠田さんと同じ香りを身に纏う。
心が落ち着いて、波谷さんを待たせてることを思い出してリビングに戻ると波谷さんはそのまま待ってくれていた。
「あれ、なんかいい香りがしますね、?」
「…香水、付けたから」
いい香りって大事な香水のことを言われて悪い気はしなかった。
「波谷さん、さっきはごめんなさい…」
結構失礼な態度をとったと自覚はある。
「え、?
大丈夫ですよ、気にしないでください。
それと、波谷さんはやめません?兄さんと被っちゃいますし、華って呼んでください」
「…華さん…」
小さくそう呼ぶと花が咲くように笑ってくれて、可愛らしい人だと思った。
「華さんは、仕事とか、ないの、?」
「僕、高校生だから仕事はないんですよ」
「じゃあ、その高校はいかなくていいの、?」
そう聞くと華さんは黙って俯いてしまった。
「華さん…?」
「僕、悪い子ですから。
だから、僕の事は心配しなくていいですよ」
正直、悪い子になんてみえないけど…
でも、それ以上聞いてはいけない気がして俺も黙った。
沈黙が続くと破ってくれたのは華さんの方だった。
「お腹、空きません、?」
「空かない…、食欲なんて…」
「キッチン借りますね」
そう言うと俺の答えは関係ないのかキッチンに立ってしまった。
手際良くて、見てて面白そうだったから近くで見ることにする。
「料理、じょうず…」
「ありがとう、これでも、家庭科は得意だったんですよ。特に料理は。
自分で作らないと食にありつけなかったから…」
ぽろりと言葉を零したかのように言うもんだから俺はなんて言えばいいのか分からなかった。
「あ、すみません、暗くなっちゃいますね、
真くんはなにか作れるんですか?」
「サンドイッチとか、スープとか…?」
「凄いじゃないですかっ!」
料理の工程を見ながら料理の話をして。
そうするとなんだかお腹がすいてきた気がする。
「出来ましたよ、オムライス、
材料勝手に使っちゃったから後で一言入れておかなきゃですね」
少しお茶目に言って俺の分まで作ってくれた。
でも、全部食べられる気がしなくて手が出しづらい。
「残してもいいですから食べませんか?」
そんなふうに言ってくれるから一口だけ、と口に運んだら、とっても美味しくて。
少しだけ寂しさが紛れた気がした。
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