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1-1 要side
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第1章
柴田が運転してくれるからいいものの、車は好きじゃない。
むしろ嫌いだ。
あの日のことを思い出すから。
「積もったら何かできそうですね」
柴田が右にカーブを切りながら、そんな俺を見透かすように朗らかに言う。
室内からはわからなかったけれど、地上は既に薄く雪が張っている。
「いい大人が雪だるま創るとか?」
「世代に関係なく雪だるまは創ります」
口には出さないけど、ほんと、堅いマスクに似合わない。
でも興奮する口調とは裏腹に、「執事」として完璧なんだよなぁ。
普通、運転するのに雪は鬱陶しいだろうに、笑わせてくれる始末だ。
俺がそんな気遣いにいちいち気づいてしまうから、このマスクを外せない。
24時間365日、俺に仕えて正確に仕事をこなす裏で、実はそう思っているんじゃないかって。疑い出したのはいつからだろう。
「・・・・・・ん?」
信号で止まったところで、ふと、小さな一軒家が目に止まった。
「どうしました?」
そこはいつも通る道で、その家のことも視界の隅に見える程度で知っていたけど。
雪の降る中、小さなベランダに何か見えた気がして、身を乗り出す。
「あれは・・・」
手だった。
真っ白い手が、雪を掴むように揺れて、動いてる。
「人だよね」
大きさとここから見える範囲的に、しゃがんでいるのか、子どもなのか。
「・・・っ!」
目を凝らすと、手首が塗ったように赤いことに気づいて、咄嗟に声を上げる。
「ごめん柴田。停めてくれる?」
「はい」
曲がったところの道沿いに停車させると、中にいるように伝えて、来た道を引き返した。
吐く息がほんのり白い。
初雪が、顔や服に降っては消えていく。
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