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1-6 蒼太side
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あの人が帰ってくるまで、あとどれくらいだろう。
そんな、ここに住み始めた頃は毎日あった緊張感も、今はない。
いつ帰ってきたとしても、その時僕が起きて「いい子」にしていたら、そのあとのことは同じだから。
選択肢があって、毎回違うものをひとつ選ぶのだと教えられた。
『今日は、そうだな。
縛られてヤるか、殴られながらヤるか、
いい子にしていたから、お楽しみか』
「お楽しみ」は、あの人がその日の気分でしたいと思ったこと。
でも、ひとつって言われても、選んだひとつだけで終わる日はほとんどないし、「お楽しみ」は、学校のみんなが楽しみにするような「お楽しみ」じゃない。
『お前を見てると、苛々するんだよ』
ヤってる間、あの人はよくそう言う。
あの人が帰ってきて、もし僕が寝ていたら、選択肢はゼロになって、髪の毛を抜かれて、蹴られて、・・・いろいろ、される。
そのことがわかってからは、夜はできるだけ起きるようにしていた。
だから、あの人がいない時で、こんなに綺麗な朝に起きることができたのは、僕にとっては奇跡だった。
・・・すぐ、やめるから。ちょっとだけ。
「・・・っと、ちか・・・くで」
声は思ったより出なくて、少し喋っただけで喉が閉まる感じがした。
何かの破片を持った僕の右手が、ロープを切る音が、部屋に大きく響いた。
ーーーー-ーーーーーーーーーーーーー
朝日で、なんとか伸ばした手が白く光る。
チカチカして目の奥が痛い。
「・・・・・・っ」
次々と雪が手のひらに落ちて、一瞬で消えていく。
このままこうしていたら、
雪と一緒に、手も、僕の全部を、太陽がじんわりと溶かしてくれる。
なんて、おかしなことを考えてしまう。
そんなこと、あるわけないのに。
「・・・ふ、ぅ」
もうとっくに、ここから逃げ出すことは諦めた。
こんなことができるのは、今だけ。たまたま。少しだけ。
悲しいことなんてない。
辛いことなんて、ない。
少しだけど、ご飯だって、お水だってもらえてる。
こうやって、一人になれる時間だってある。
外を走る車には乗れないし、外を歩く人たちみたいに服はもらえないけど、雨に濡れないし、誰かを汚すことも、ない。
それなのに、今になって、涙が出た理由はよくわからなかった。
あと何分、何秒、こうしていられるかな。
カチャッ
目元を拭ったその時、何かが開く音がした。
・・・来る。
僕はパニックになった。
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