アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
1-12
-
「・・・・、・・・・・」
無反応かと思った矢先、「わ・・・ぁ」って声が聞こえた。
こんなに近いのに、聞き逃してしまいそうなくらい、小さな驚きだった。
「俺も最初はびっくりしたなー」
「・・・・・・」
どこまでも続く街並みを見つめる横顔を見ていると、頭の隅にある記憶が首をもたげてくる。
「こんな広い景色を、俺一人に?って」
・・・なんの意味も無いわけがなかった。
家族や部下に大した愛情も示していないくせに、成人していない人間にこんな王室並みの部屋を与えて、何考えてるんだあいつ。
言えなかったけれど、いつも、喉までせり上がったのは皮肉ばかり。
「愛する長男に最高の環境を与えてやりたい」
いつだったか、マスコミにそんな謳い文句が報道されていたと知って反吐が出る思いだった。
あいつがそんな人間じゃないことなんて、生まれた時から知っている。
だから、この家に住まわされたことに感謝したことなんて一度もない。
一寸も、なかった。
今日までは。
「・・・・・・、」
底なしの光景に何度も瞬くそうたくんの表情が、ほんのわずかだけれど変わっていく。
例えるなら、夜のように真っ暗な瞳に、街の輝きがぽつりと灯るみたいに。
久しぶりに、人の純粋な感情を目の当たりにした気がした。
そして同時に、胸の奥の深い部分を燻られる感じがした。
こんな景色一つで、生まれて初めての思いを経験したのなら、今、ここにいられてよかった。
そう思えるくらい、腕に響く無防備な鼓動が心地よかった。
「・・・ひ、」
「ん?」
何分経ったのか、何秒経ったのか。
ふいにそうたくんが何かを言いかけたので顔を寄せると、本人も無意識だったようで、黙ってしまう。
「なんでも言っていいよ」
「・・・・・・」
そのまま俺の方を見ては伏せ、また見ることを繰り返す。
どんなことでも聞くし、話してほしい。
そう言うと、零れそうに大きな瞳が見開いた。
「ぁ・・・・・・・・・あの、ひと・・・は、い、い・・・ます、か?」
最後の方は投げやるように、言ってからぎゅっと目を閉じる。
言ったら、何かされると思ってるんだろうか。
「大丈夫だよ。あの人って?」
「・・・、・・・ぁっ・・・」
「・・・そうたくんがいた家の、人?」
「・・・っ、・・・」
やっぱり、加害者がいた。
通報はまだ待つように、柴田に目配せする。
「いないよ。大丈夫。
ここには柴田と俺しか入れないから」
「・・・っ、め、なさ・・・」
眉を寄せ、息を詰めたそうたくんの背中をゆっくり摩る。
「ちなみに、あの家は反対の方角だから、この窓からも見えないんだ」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
14 / 29