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冬の女の子
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地下鉄を上がると、冷たい外気にミニスカートから出した太ももが一気に鳥肌を立てた。
2月の土曜日の原宿は相変わらずの人の波で、ボクはこっそり深呼吸して冷たい空気を吸い込み、タータンチェックの赤いマフラーの中に深く顔を埋め、その流れに紛れ込んだ。
ボクは冬が好き。
こうしてぐるりと巻いた大判のマフラーに細長い顔を半分も埋めると、小さな丸い顔の女の子になった気分になれるから。
男子高校生らしい髪を今日はふんわりマッシュにセットして、ウールのブレザーと厚手のぶかぶかセーター(でふっくら着膨れ)プリーツスカートをどこかの高校の制服みたいにコーデして。むき出しの生足に紺のハイソックス。寒そうなのがポイント。
「約束の時間」まで、ボクはショーウィンドウに映る可愛い女の子を“まゆ”を横目で見ながらぶらぶらとスクールバッグを揺らして歩いた。
175センチの女子高生は、やっぱり振り返られることもある。視線が追っかけてくることも。でもこうして歩いて移動していると、人目なんか一瞬のこと、気にならない。ショップやカフェに入るのはまだ怖いけど。
ウィンドウに映るボクを見て、思うのは、脚綺麗じゃない?ってこと。
細くて長くてまっすぐで、これは自慢。よく見るとローファーが異様に大きいけど、ミニスカートのための脚って感じ。
本当は夏もミニスカートで歩きたいけど、夏の薄い服は上半身が目立つから。
冬なら女の子として街を歩ける。
これは15歳のボクの発明だった。
ママが死んだ。
もうすぐボクの15歳の誕生日だっていう、去年の2月のある日曜日。
ママが暮らしていた病院からの電話は、ボクが彼氏とセックスしてる時にかかってきた。
すぐに病院にくるように言われて電話を切ってから、しばらくボクはふわふわ宙に浮いたようだった。彼とはそのままセックスをぼんやりと続けた。なんとなく、セックスしてる間はいまの電話、現実にならないんじゃないかと思って。
おチンポで突き上げられながら目を瞑ると、わーっとまぶたの中が熱くなって、ボロボロと涙が溢れた。彼はそんなボクを見て、嬉しそうに顔をベロベロ舐めまわした。
「まゆ、かわいいよ、かわいいよ」
まゆっていうのは、ママが呼んでくれた名前だった。
ボクが女の子になりたがったので、ママはボクをそう呼んで、家ではママが昔着ていたかわいい女の子の洋服をたくさん着せてくれた。
鏡の中のボクは、女の子の服を着た男の子だった。しょうがない。ボクは多分パパに似ていて(あったことはない)あるいはおじいちゃんに似て、男の子らしい顔だちと体つきだったから。
でも、頭の中の女の子はママのおかげでしあわせに育っていった。
大学生の彼とはいつも男の子の格好で会っていた。彼は男の子が好きだったから。(女の子が好きだったらボクとは付き合わないだろう)でも、ボクのことはまゆって呼んでくれた。
「まゆ、まゆ、かわいいよ、まゆ」
ボクはいつの間にかあんあん声をあげて泣いていた。泣きながら、トコロテンで射精した。
ママ、死んでしまったんだ。とうとう。
ボクは15歳の誕生日を一人で迎えた。
彼がバースデーやろうって誘ってくれたけど、ごめんねって断った。
ボクは彼氏にあの日ママが亡くなったことを言わなかった。だって、そんな知らせが来たのに、ちんぽ突っ込まれてアンアン鳴いてトコロテンやってる息子なんて、狂ってるよね。
ひとりぼっちになってから、毎晩ママの残した女の子の服にくるまって寝た。
ママのお化粧品や香水、マニキュアを塗ったり、ポルノ女優のようなレースの下着をつけてみたりした。
ママの葬儀から学校に行かないまま、ボクは中学を卒業し、入学式を1週間過ぎて、ようやく進学した高校に登校した。
彼氏とは、6月に喧嘩別れした。ボクが彼の友達ともやってるってわかったから。
ラインに着信があった。ボクは少し急ぎ足で約束した場所に向かった。
青山通り沿いのチョコレートショップの前でハザードを点滅させている白い車。
ボクが小走りに駆け寄ると、ドアが開いた。
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