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視界を覆う眩しさで目を覚ました。
柔らかなシーツの感触、どうやら、いつのまにかベッドの上で寝ていたらしい。
「っ…ん……?」
起き上がろうと腕を動かすが、動けない。
体の自由が効かないことに驚いて自らを確認すると、腕が後ろ手に縛られて、足首も1つにまとめられている。これじゃあ、歩くこともできない。
なんなんだこれ。俺は何か、犯罪に巻き込まれたのか。…つーか、ここどこだ?
「嘘だろ……」
チンとレンジの音が聞こえた。
開けられたドアの方に目をやると、見覚えのある男が入ってきた。
肩まで伸びた色素の薄い髪、ニヤついた口元。
昨日俺に、スタンガンを当てやがった男だ。
「あ、起きたんだ。おはよう。おなかすいてる?」
「っテメェ何が目的だ!金か!?」
「そんなんじゃない、君だよ」
男の口元が、さらに笑みを深くする。
もしかしてこいつ、ゲイなのか?だとしたら、俺を誘拐したのは、わいせつ目的…?
生まれてこのかた、こういった類の奴に出会ったことはなかった。テレビでオネエタレントを見るくらいで、自分には縁がないと思っていたのに。…いやいや、それよりも縁がないと思っていたのは、こういった犯罪の類だ。
「このっ、ホモ野郎が…」
「ホモじゃないよ」
「じゃあなんだってんだよ!」
「だから、君だって」
そう言って、男はモデルのように長い片脚をベッドに乗せた。距離が一気に縮まって逃げようとしたが、縛られているせいでうまく動けない。
もうだめだ、と諦めた瞬間、香水のような香りが体にまとわりつく。それは、男が俺を引き寄せて抱きしめたからだった。
「これで僕は、一人じゃなくなった」
「……は?」
「これから君は、僕の家族だよ。ずっと一緒に生きていくんだ。……僕が死ぬまで」
「っ……」
…やっぱり、誘拐なんてする奴は頭がオカシイ。
男はそっと俺から体を離し「朝食にしよう」と言って部屋を出て行った。どうやら、襲われると思ったのは早とちりだったらしい。
しかし、飯を食おうにも、腕と足を縛られているこの状態でどうやって食えというのだ。
そんな心配もよそに、男がまた戻ってきた。
その手には、トーストを乗せた皿。
「はい、口開けて」
「っは…? こ、この拘束を取ってくれれば自分で…!」
「そしたら逃げるでしょ?」
「……に、逃げない。逃げないから」
「だーめ。ほら、口開けてよ」
「んむっ……!」
反論を遮るように、唇にトーストが押し付けられる。毒でも塗られていたら、俺はここでお陀仏だ。
…だからと言って食べるのを拒んだところで、いい結果にはならない。ここはおとなしく言う事を聞いた方がいいだろう。
「んぅ…っん…」
味なんてしない。ただ乾いた口内が不快だった。
男はまるで動物の餌付けでもしているかのようにトーストを口に突っ込んでくる。手加減というものを知らないらしい。苦しさに眉を寄せながらもそれを頬張ると、男は満足そうに笑った。
「…あっ、自己紹介がまだだったね。僕は田渕奏英」
「ったぶち、かなえ……」
「……女みたい?」
「………」
こいつの名前……確かに女みたいだ。
しかし、俺は必死で首を振る。コイツの機嫌を損ねたらどうなるかわからない、最悪殺されるかもしれないのだ。
そしたら男は嬉しそうに笑って、ありがとうと言った。
「それで、君の名前は?」
「……高月、侑太郎」
「侑太郎くんね、覚えたよ」
奏英は俺の名前を呟きながら、食べかけのトーストを一口齧る。それも、俺が食べた部分。
思わず悲鳴をあげそうになったが、咄嗟に口をつぐんで耐えた。
そして予想通り、奴の食べたトーストが俺へ回ってくる。
「はい、侑太郎くんの番」
「っ……」
ガキじゃないんだから、間接キスくらいどうってことない。
嫌悪感を必死に押し殺しながら、おずおずと奴の食べたトーストに口をつけた。
奏英はその様子をじっと見ながら、俺の齧ったトーストをまた食べる。その繰り返し。
「アハハ、侑太郎くん震えてる。なんかウサギみたいだね」
奏英の無邪気な笑い声に、恐怖を覚えた。日常で感じることのない身の危険と、これからどうなるのか、急に分からなくなった不安。
情けなかった。
少しでも強く見せるために染めた金髪。開けたピアスの穴。それらは本当にちっぽけなものなんだと、ようやく気付いた。
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