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『16日深夜一時頃、三丁目のコンビニ〇〇店で誘拐事件が発生しました。コンビニを訪れた男性の通報で警察が監視カメラを調べたところ、黒いフードをかぶった人物がスタンガンで店員を気絶させて担いで出る様子が映っており、現在犯人の特定を急いでいます……』
次の朝。
ようやく流れた俺のニュースを聞きながら、まだこいつの性別も特的できていないことに絶望する。
「っ……くそ…」
「侑太郎くん、口開けて」
「……ん」
「そうそう、可愛いね」
2日目、いまだ奏英の正体はよくわかっていない。
相変わらず手足の拘束が解かれることはなく、朝食であるリンゴヨーグルトを奏英の差し出すスプーンから食べさせられている。まるで母親に世話される赤ん坊だ。これが俺の屈辱を煽る作戦だとしたら大成功だが。
「……あの、聞いてもいい……ですか」
「うん、いいけど、今更敬語はやめてよ。他人みたいで寂しいから」
他人だろうが。
「なんで…その……俺……?」
かなり勇気を振り絞った質問だった。
奏英はいつもの笑顔のまま、さらりと答える。
「誰でも良かったんだ。家族になってくれそうな人なら」
「……俺が、家族になってくれそうだったってことか…?」
「うん。だって、俺に微笑んでくれたじゃない」
あれは営業スマイルだっつーの!!
こいつ、やっぱりズレてる。答えがめちゃめちゃで、ちっとも理解できない。
だからこそ、余計どうなるかわからなくて怖くなる。
「家族って……えっと…」
「なに?」
家族が欲しいといえど、こいつにも本当の家族がいるはずだ。しかし、そんなストレートに家族のことを聞いてもいいんだろうか。
…ああ待てよ、家族が欲しいなんて理由で誘拐するやつだ。家庭環境が複雑なのは間違いない。変に地雷を踏んでも厄介だから、この質問はやめておくか。
「じゃあ…あんたは俺を、弟にしたいのか…?」
「違うよ。侑太郎は、僕の奥さん!」
「……は?」
またわけのわからない答えだ。
いい加減、バカにされ過ぎて慣れてきたのが悲しいが、とりあえず話を続ける。
「な、なんで…? 俺、男なんだけど……」
「いいじゃん。僕は奥さんが欲しかったんだ。だから君は僕の奥さん!」
悔しさに拳を握り締めながら、「そう」と呟いた。それしか返事ができなかった。
奥さんって、なんだよ。
俺はな、就職がやっと決まって、あんな低賃金のバイトからやっと抜け出せるところだったんだ。なのにそんな、くだらない理由で俺の将来を台無しにしやがって。ふざけんな……。
「でも、家事とかお買い物とかはしなくていいからね? 全部僕がしてあげる」
「……ああ」
「食べ物も、服も、全部僕が用意する。君は僕の大事な奥さんだから」
「……そう」
もう、泣きたい気分だ。どうしてあの日、バイトのシフトを変わったんだろう。もうすぐ辞めるからって、変な善意でもあったのか。俺がシフトを変わらなければ、入ったばっかりの新人が誘拐されてくれたかもしれないのに。なんで俺が、なんで俺だけ。
「侑太郎、」
「……なに?」
「僕の話聞いてる?」
いつもよりワントーン低い奏英の声に、ハッとする。
なにを俺は、今更ネガティブになっているんだ。過ぎたことを後悔してもどうにもならない。それより、目の前の男の機嫌を取ることが大事だろ。
「あ…ああ、ちゃんと聞いてる……」
「そっか! 良かった」
思ったよりもあっさりな反応だった。
奏英は不意に立ち上がると、鼻歌を歌いながら空の食器を下げにいく。どうやら、危機は避けられたようだ。
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