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「大丈夫?顔色悪いよ?」
「………」
「あ、もしかして今までの奥さんのこと気になるかな?そうだよね、侑太郎は、僕のことなんにも知らないもんね」
奏英は俺の反応を楽しむように笑い、動けない俺を再び抱えてリビングへ戻った。それからソファに降ろされる。
それから、奏英は寝室へ行ったかと思うとすぐに戻ってきた。その手には、俺の写真を撮った時と同じビデオカメラ。
「見せてあげる。僕の元奥さんたち」
「えっ……」
ピ、と機械的な音とともに映し出されたのは、俺と同じ格好をした人たちの写真だった。
ズラリと並んだ縛られた人間の写真。それは性別も年齢もまちまちで、中には子供や還暦を迎えているであろう人物もいた。
場所は全て、あのベッドの上。
「……懐かしいなぁ。この女の子は、泣いて泣いて大変だったよ。その後も、怒るし、喚くし……面倒くさくなっちゃって、山に捨てたんだー」
口が渇いて、言葉も出ない。
それから、奏英は俺が恐怖で喋れない間、一人ずつ写真を見せて話してくれた。丁寧すぎるくらいに。
本屋で話しかけてくれた女性店員。怯えてろくに会話もできず、つまらないから川に捨てた。
隣の家に越してきて挨拶に来た公務員男性。優しかったけど変な説得をしてきて苛ついたから近くの空き地に埋めた。
「この人はねぇ……」
聞きたくないのに、止めることもできない。
内容にそぐわず穏やかな奏英の声が、俺の耳元で、まるで絵本の読み聞かせのように響いていた。
ビデオカメラに写った人たちは、どれも恐怖に怯え、どうやって逃げ出そうかと考える…俺と同じ表情をしていた。
奏英は、もうわかってるんだ。
俺がまだ逃げることを諦めていないことも、今恐怖に怯えていることも。
わかっているから、この拘束具を外さない。奏英のいう通り、これが外れるのは……。
俺が逃げることを諦めた時。
「それでこの人は……」
「……も、もういい! もう、いい…」
「え、なんで? 僕の話つまらなかった?」
俺の命は、すでに自分のものではない。
生きるも死ぬも、こいつ次第というわけだ。
高校を卒業してフリーターになり、バイトで食いつないでいた。やっと就職先が決まって、これからだった。友達にも、やっと胸を張って会えるようになったのに……。
頭の中で描いていた未来が消えていく。
「いや、少し疲れたから……休みたい」
「ああ…そうだね。侑太郎はまだこの家に来たばっかりだしね。じゃあ、ベッドで休ませてあげる」
奏英は俺の体を抱えて、ゆっくりと寝室のベッドに降ろした。その手つきは優しいのに、少しも恐怖は消えてくれない。
奏英の手が俺の肩へ添えられ、倒される。
枕が少し高かったが、かまわずに目を閉じた。昨夜の寝不足もあってすぐに眠れそうだ。今寝ておかないと、パニックで暴れ出してしまいそうだった。
大丈夫、こいつは俺を殺さない。
……今はまだ。
「ねぇ、侑太郎」
「……何?」
「キスしてもいい?」
ゆっくりと目を開けると、奏英が俺を見て微笑んでいた。
断れないとわかっているくせに。
これは、無自覚な脅しだ。
「……ああ」
そう答えると、奏英は俺の肩に手を置いて、ゆっくりと唇を重ねてきた。
どこかでこいつが人間じゃないのかも、と思っていたが、奏英の唇は暖かかった。
こいつは、今まで何人にこうしてキスをしてきたんだろう。
縛って、家に連れてきて、ベッドの上に倒して、まるでペットのように扱う。身の回りの世話をして、見世物のように眺める。
奏英は今まで、何人殺してきたんだろう。
「おやすみ、侑太郎」
「……おやすみ」
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