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ぽたり、と頬に冷たいものが当たる。
雨かと思って重いまぶたを開いて見ると、泣いてる奏英がいた。
こいつ、泣くのか。
「侑太郎…良かった、起きたんだね」
首が、少し痛い。
そうか、こいつに首絞められて、死んだと思ったけど気を失っただけだったのか……。
「……なんで泣いてんの? 自分でやったくせに」
「本当に、殺すつもりじゃなかった。ちょっとムカついただけなんだ。ごめんね……」
「………そ」
ちょっとムカついたから、か。
まるで、高校時代の俺みたいだ。
「気を失っただけで良かったよ。僕は、加減がわからなくて、今まで何回か失敗しちゃったから……」
怖いこと言うな。
「でも、侑太郎はまだ…僕の奥さんでいて欲しい。すごく楽しいんだ。侑太郎のこと、まだ見ていたい」
気色悪ィ。どこの国の口説き文句だよ。だったら首絞めたりしてんじゃねぇ。
「……もう、意味わかんね…」
死にたくないのに、目を開けてまたこの部屋にいて、少しがっかりした。自由に動けない体に苛々する。目の前の男に嫌気がさす。
本当に、この男…何考えてるんだろう。なんでこんなことをしてしまうんだろう。もしかして、人の愛情に飢えていたりするのか。そういえば、犯罪起こす人は家庭に何らかの問題がある人が多いってテレビで見た気がする。
「なぁ…奏英のこと教えてくれよ」
「僕のこと?」
「生まれた場所とか、通った学校のこととか。あと…家族のこと、とか……」
怖がってたら、何も良い方へ進まない。
奏英は、怖がられるのが嫌みたいだから、俺が恐怖を感じなくなるように頑張るしかない。
それに、こいつのことをもっと知って、怖くなくなるといい。
「生まれた場所は、東京だよ。学校は私立天宮学園」
思ったよりもあっさり答えてくれた。
それに驚きながらも、奏英が答えた学校名に聞き覚えがある。
私立天宮学園。確か、小学校から大学までエスカレーター式の、金持ちしか入れない学校だ。
じゃあこいつは、金持ちの息子ってことか。
でもそれだったら、なんでこんな貧相なマンションの一室に暮らしてるんだ。それに、殺人や誘拐をし続けて、気づいて止めてくれるような家族はいないのかよ。
「家族はね、侑太郎だけだよ」
「っ……俺?」
「僕の奥さんって、最初に言ったでしょ? もう忘れた?」
「……いや…」
それはあくまで、そーいう設定…みたいな話だろ。こっちは本物の家族のことを聞いてるってのに。
これは、わかっていて、誤魔化しているのか…?
わからない。こいつなら、本気でそう思っていてもおかしくないし…。
聞いてみようか。本当の家族はいるのかって。多分今を逃したら一生聞けないし、答えてくれない。一回死にかけたんだから、もうなんでもできるだろ。
「かな……っクシュ!」
「大丈夫? …一応すぐに服は着せたんだけど、やっぱり湯冷めしちゃったみたいだね」
なんてタイミングでくしゃみが出るんだ…。
奏英は俺を膝の上から退けると、ベッドに横たえ毛布をかけた。もちろん手足は縛られたままだが。
それからじっと俺を見つめて、楽しそうに笑っている。その笑顔は、本当に、昨日俺を殺しかけた男と同一人物とは思えない。
「何笑ってんだよ……」
「…侑太郎が、僕に慣れてきたみたいで嬉しいよ」
「は…?」
「君はね、怖いって思ったら、僕から目をそらすんだ。怒ったら睨むし、嫌だったら眉を寄せる。嘘をつくときは、笑う」
……これも、観察の成果なのか。
確かに奏英に慣れたといえば、当初よりかは未知の恐怖は薄らいでいる。でもまだ、気を抜けない。逃げなければいけないことも、わかっている。けど、こいつから逃げられないことも、わかっている……。
なんて言っていいかわからずに目を泳がすと、奏英がふっと微笑む気配がした。
「すごくわかりやすくて……可愛い」
「っ……なんだよ…それ…」
可愛いなんて言われても、まったく嬉しくない。
苛立ちを隠すように眉を寄せると、奏英がまた笑った。その笑い方があまりにも優しくて、本当に俺を大切に思ってくれているんじゃないかと錯覚しそうになる。
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