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「……あのさ…なんで俺が好きなんだよ…?」
「………」
「……俺のこと、何にも知らねぇくせに……」
「知ってるよ、一ヶ月も一緒に…」
「それは俺じゃねぇ!!」
思わずそう怒鳴ると、奏英はほんの少し俺から体を離した。
その戸惑ったような目を睨みつけ、もうどうにでもなれと、言葉を吐き出す。
「…お前が好きなのは、自分の腕の中で犬みたいに従ってくれる奴隷だ。俺じゃない」
「違う、それは君だから……」
「言うことを聞かないと、昨日みたいに躾けるんだろ? 俺はお前の飼い犬になんか……なりたくねぇよ」
もう、我慢するのはやめた。
誰も助けに来ない。誰も俺の場所に気付かない。逃げたら奏英に心を殺されて、また一から飼い慣らされる。
「いっそ殺してくれよ……奏英」
「っ……」
「俺は、お前の奥さんにはなれねぇから…」
何回も自分を慰めてきた。
いつか助けが来る。誰かが気づいてくれる。
でももう疲れた。自分を励ますのも、感情を隠すのも。
「……はは、なんか、俺の人生振り返ってみたけどよぉ…。別に、死に物狂いで戻りたいような人生でもなかった気がする」
奏英の顔が見れなかった。
いつその手が首にかかるのかと思いながらも、独り言のような会話を吐き出す。
「高校の友達も、元カノも、就職したり大学行ったりして人生勝ち組だよなぁ。…なのに俺は、コンビニなんかでせっせと毎日バイトして……やっと就職が決まった矢先に、お前に誘拐されて………」
思い出すのは、辛いことばかりだ。
小中楽しめなかった反動を受けて、高校では思い切りはしゃいだ。バカみたいな友達と、バカみたいに真面目な生徒をオモチャにして、毎日毎日飽きなかった。
俺は王様だった。
……王様だったんだ。
「奏英……俺を犯して、満足したんだろ? もう解放してくれよ」
だから、今の自分にガッカリしてる。まだ見返せる。まだ友達に追いつけると思ってた。けどもう無理だ。
今更戻れない。戻ったって、俺の居場所なんかない……。
「俺はお前の玩具じゃねぇんだよ…っ!」
今まで堪えてきたものが、どっと溢れ出す。
枕に顔を埋めて、止まらない涙を隠した。そのうち嗚咽が漏れて、それも枕で掻き消した。もう嫌だ。王様じゃない俺は俺じゃない。こんな毎日は、耐えられない。
小学校、中学校、ずっと虐められてきた。
その頃の俺は体が細くて、身長も一番背の低い女子と同じだった。あだ名は「女」。声代わりが遅かったのも、その一因となった。
女じゃないのに、そう呼ばれて、恥ずかしくて、悔しかった。だから高校では、金髪にしてピアスを開けた。次第に背が伸びて声代わりもして、そいつらを見返すくらいの「男」になれた。
そんな俺が、「奥さん」だぞ? 笑える。
「やだよ、殺さない」
「今までの”奥さん”みたいにさぁ……簡単だろ?」
「侑太郎は違う」
「同じだ」
「違う、やだ、殺さない……」
「っじゃあテメェが死ねよ!!」
涙で濡れたぐちゃぐちゃの顔で、奏英を睨み付ける。
しかし、奏英は表情一つ変えずに、すっと俺の方へ手を伸ばしてきた。頬に張り付いた髪の毛を掬うと、そのまま前髪ごと掻きあげられ、顔を覗かれる。
タイミング良く目からこぼれ落ちた雫を見て、奏英は悲しそうに笑った。
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