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説明会を終えた竜也は、他企業への挨拶もほどほどに、迎えにきた車へ乗り込む。
「お疲れ様です、部長」
「ああ……出してくれ」
竜也は、自分が壇上に出た時のざわめきを思い出して、溜息をついた。
……モデルみたい、そういった声が聞こえた。何度言われたかわからない。竜也は、そういった見た目に関する評価が恐ろしかった。
伴わない内面と比べられたくなかったから。
「……またくだらないことで落ち込んでいるのか、竜也」
隣で腕を組み、こちらを見もしない父、田淵幸一郎は言った。
くだらないこと、父にとっては、息子の悩みなど取るに足らないこと。
竜也は、返事をするのが嫌で無視をしてみせる。しかし、幸一郎は言葉を続けた。
「見目が良い事は悪いことではない。それに、お前は内も良くできてる。……気狂いの兄と違ってな」
「っ………父さん、それは、」
「ああ、すまない。アイツのことは喋らない約束だったか」
一瞬、部下の顔を伺うが、彼は少し気まずそうな顔で運転しているだけだった。
竜也は、兄の話をするのが嫌だった。兄が嫌いだからじゃない。兄が好きだったからこそ、今の兄を受け入れたくなかった。
……どうしてあんな風になってしまったのか。
「ああ、そういえば……アイツに渡すものがあってな。私は忙しくて時間が取れないから、お前に渡してもらおうと思って持ってきたんだが……」
「あの人は、俺にドアも開けてくれませんよ」
「だったら”同居人”に渡せばいい」
「っ………」
竜也は、膝の上で拳を握り締めながら、首を振る。
「……関わりたくない」
「大丈夫だ。もうすぐ終わる」
「……終わる? 終わりなんてこない。あの人は……」
「今回の同居人は、どうやら運がいいらしくてな。アイツはこれで最後にするつもりだそうだ」
最後。それは、なんの最後だ?
父さんが、兄の犯罪を揉み消すこと? 俺が、兄の存在を恐れること? それとも、兄が罪を重ねること……?
終わらない。アレはもう癖みたいなものだ。
誰も逃げられない。家族である俺たちは、兄に一生縛られて、恐れて生きていく運命だ。全てを誘拐された運の悪い奴に委ねられたらどんなにラクか。でもそれはできない。飽きたら捨てられるオモチャみたいな彼らに、全てを託すなんて出来るわけがない。
俺たちには一生、心の安らぎはこない。
「最後に一回くらい、行ってきたらどうだ?……あのマンションはもうすぐ取り壊す予定だからな」
父さんはわかってない。
……俺たちがどれだけ他人を不幸にしてきているのか。
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