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「はい、口開けて」
すっかり手脚の枷にも慣れてしまい、奏英の手から食事を摂る毎日。
口に流し込まれるヨーグルトを味わうと、すぐにオレンジジュースを飲まされる。最初の頃はタイミングが合わなくて苛ついていたが、もうそんなこともない。奏英は俺に優しくなった
……と、思う。
「美味しい? そのヨーグルト、お腹に優しいって書いてたから買ってきたんだ。侑太郎いっつもお腹壊しちゃうから……」
「……そっか」
それは、お前が俺の中に出した精液をかき出してくれないからだろ。
……でも、そんなこと言ったら奏英が悲しそうな顔をしそうだから言わない。
ふと窓の外を見ると、白いものがふわふわと浮いていた。それは風に乗って漂い、窓にぶつかっては消える。
「あ、雪降ってきたね」
……雪?
「今日はクリスマスだから、ケーキでも買ってこようかな。侑太郎、ケーキ好き?」
「………」
「……侑太郎?」
クリスマス? ……今、何月だ?
一二月?俺が誘拐されて、もう一年近く経つってのか…?
ニュースも、最近俺のことはやってない。何も、何も、何も……。
「侑太郎!!」
「っ……あ、ああ…ごめん……何?」
「……ケーキ、好きかなって」
「……ああ」
どくどくと、久しぶりに心臓が早鐘を打つ。
大丈夫、落ち着け。何も変わらない。いつも通りだ。
俺は奏英の家族になった。逃げることも母さんに会うことも友達に会うことも諦めた。
奏英は俺がいないとダメになる。だからここにいる。そうだ、そうだろ……。
何も怖くなんてない。
「……やっぱやめた」
「…え?」
「ケーキなんかより、侑太郎が食べたい。ねぇ、ベッド行こう?」
「は……ま、また? 昨日やったばっか……」
「嫌なの?」
奏英の低い声に、反射的に体が強張る。全身に染み付いた恐怖心は癖みたいなもので、それを和らげるために思考を停止させるのは防御反応だった。
「……嫌じゃ、ない」
「じゃあいいでしょ。ほら、立って」
「いっ……」
ぐい、と腕を引かれて無理やり立たされると、引きずるようにベッドルームへ連れていかれる。足が縛られているせいでうまく動けないにも関わらず、最近はお姫様抱っこもしなくなった。
奏英は乱暴にベッドへ俺を投げ捨てると、暑いとでもいうようにシャツを脱ぎ床へ落とす。そして、いつものように俺の首をシーツへ押さえつけ、唇を塞いだ。
「ンッ、ん、ぅ……っ」
部屋の暖房が効いているせいで暑いはずなのに、背中を冷や汗が伝う。奏英のキスは、いつも苦しくて目眩がする。このまま目の前が暗転して、気づいたら天国にいても不思議じゃない。怖くて、でも気持ちがいい。
「っは、ぁ、奏英……」
「なに?」
「早く……とって」
拘束を取らないと、何もできない。奏英を抱きしめることも、受け入れることも。
しかし、奏英は俺をじっと見下ろしたあと、突然、俺の頬を思い切り殴りつけた。
弱った俺の体は衝撃でシーツに倒れ込み、しばらく痛みと何が起こったかわからなくて動けなかった。奏英に殴られるなんて、考えたこともない。
なんで? 俺、なんかした……?
「侑太郎、ほんとに僕のこと好きなの?」
「………は?」
「あれから何回もセックスしてるけど、侑太郎、全然笑わない。あれ以来好きだって言ってくれないし、全然楽しそうじゃない。好きな人といるときは笑うんでしょ? 違うの?」
なに……小学生みたいなこと言ってんだ、こいつ。
いや、違う。こいつは元々頭のおかしい奴だった。そして愛が欠落していて、頭のネジが外れてる。こいつの行動を予測できるわけがない。
なんとか、適当に合わせなければ……。
もうずっと動かしていなかった表情筋を無理やり動かし、笑顔を作る。
「なに言ってんだよ、俺はちゃんと、お前が好きだって言っただろ……?」
「……侑太郎、わかってる? 今、嘘ついてるよ。あの時は本当だったのに、嘘になってるよ? なんで? なんで……」
「奏英、待て、落ち着……!」
今度は腹を殴られ、一瞬息ができなくなる。
嘘だろ、なにを基準に嘘とか本当とか判断してんだ。わけわかんねぇ!
起き上がる前に奏英が腹の上にまたがり、前髪を鷲掴みにされる。それから、また頬を殴られ、口の中に血の味が広がった。
「ああ……わかった。侑太郎、セックスしてる時しか僕のこと好きじゃないんでしょ。そうだよね、侑太郎は気持ちいいこと大好きだもんね」
「ちがっ……!」
「なに? また嘘? じゃあ今侑太郎を家に帰してあげるって言ったら、侑太郎はこっちを選んでくれるの? 帰りたくないって言ってくれる?」
「っ……そんな、の…」
……ひでぇ奴。なんでそんなこと言うんだよ。
どうせ帰す気なんてないくせに、選択肢なんてないくせに。
俺は決めたんだよ、諦めるって決めたんだ。あの時、ちゃんとお前を選ぶって決意したんだよ…!
「っ…もう、俺には……お前しかいねぇから…だから、好きだって言っただろ! なんで信じてくれねぇんだよ!!」
なんでこんなに悲しいんだろう。こいつはやっぱり誘拐犯で、犯罪者なのに、信じてもらえなくて悲しいなんて初めてだ。
……悔しい。俺、あんなに努力したのに、奏英のこと本当に好きになれそうとか思ってたのに、なんだよ……結局これかよ。顔と腹、めっちゃいてぇし……。
「……侑太郎、…」
奏英が何か言いかけた瞬間、ピンポン、とチャイムが鳴り、部屋の空気が固まった。
……誰か来た…?
幻聴じゃなくて?
「っ……か、奏英…」
「……少し出てくる。侑太郎、静かにしててね」
もしかして、また前回と同じやつか。だとしたら、まさか資金源……?
だとしたら、助け求めたって無駄だよな。そもそも、助けなんて、来るわけねえんだし…。
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