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クリスマスの朝、会社が休日なのをいいことに、真っ直ぐ兄の家までやって来た。
先延ばしにすると、もっと行きづらくなる。だから今日、今年中に、決着をつけなければいけない。
もうこんなことはやめにしよう。
チャイムを押すと、部屋の奥から足音が聞こえた。その気怠そうな足音は扉の前で止まる。
「……兄さん」
扉は、案の定開かない。
兄は俺のことが嫌いだ。昔から。
ここに来たことも今まで二度あるが、どれも出た事はない。まともに最後に会ったのはいつだったのか、まだ俺たちが制服を着ていた頃まで遡ってしまうかもしれない。
「兄さん、そこにいるんだろ? 開けてくれ」
ポケットにしまった小型のナイフを握りしめる。開けた瞬間、そこが勝負だ。兄さんに振り回されるのはもううんざりだ。父さんが溜息をついて、僕に死体の回収を依頼してくるのももううんざり。
気持ち悪い、気持ち悪いんだよ……!!
「開けろっつってんだろ!!」
思い切り扉を蹴飛ばし、すぐそこにいるはずの兄に訴える。確かに気配はするのに、それは微動だにしない。ただじっと、覗き穴から俺を見ているような妄想が浮かんで、更に頭に血が上る。
もう一度扉を蹴ろうとしたその時、ガチャン、鍵の開く音がして、扉はいとも簡単に開いた。
「………うるさいな、何?」
兄が出た。
ボサボサの伸びた髪に、やつれた瞳。どこか生気がなく、昔の面影は少しも無かった。
「……に、兄さんに…話が……」
「僕には無い。帰れ」
「嫌だ。もう、こんなこと…やめろよ!! こんなことしたって、兄さんは幸せになんかなれない。本当に愛して欲しいなら、ちゃんと対等に向き合えよ!!」
ナイフを握った腕が、震える。
本当に俺は、兄を殺せるのか…?
いや、できるなら、説得したい。でも、そんな事無理だって100も承知だ。だからこうして、いつでも刺せる準備をしてるんじゃないか。
大丈夫、大丈夫だ…。
「兄さんはいっつも逃げてばっかで……向き合おうとしないよな。まず、自分がおかしいって気付けよ! 周りを見ろよ!! ……少しは周りに合わせて普通になっとけば、兄さんだってみんなに嫌われることなかったんだ。自業自得だろ! 好かれなかったからって……愛されなかったからって、関係ねぇ他人巻き込んでんじゃねぇよ!!」
恐怖で足がすくむ前に、言いたい事は全て言った。
がむしゃらに兄を睨み付けるが、兄の目には何も浮かんでいない。何を考えているのか、相変わらずわからない。
「……それだけ? じゃ」
「待……っ!!」
閉められかけた扉に足を入れ、思い切り扉を開け放った。
そこまでされると思っていなかったのか、兄が驚いた隙にポケットからナイフを取り出す。
「じゃあ死ねクソ野郎!!」
それは一瞬だった。
兄の腹深くナイフを突き刺し、深く抉る。今まで殺された人たちの分まで苦しめるように、ズタズタに、何度も、何度も突き刺す。
「……ぁ………」
そのはずなのに、血まみれなのは俺の方だった。
がくん、と膝から地面に落ちると、そのまま倒れ込む。全身から力が抜けていくのがわかる。
腹を貫いたナイフは、俺のナイフでは無かった。兄が……奏英が、持っていたものだった。
力を振り絞って奏英を見上げると、奴は何の表情も浮かべていなかった。家族を刺したというのに、怒りも、悲しみも。
「うざいよ、竜也」
「っ……兄さ……」
嘘だろ、俺が…逆に奏英に殺されちまうのか……?
遠くなっていく視界の中、苦し紛れに奏英の脚を掴む。しかし、それを虫でもついたかのように振り払われ、最後に腹を蹴り飛ばされ、玄関の外まで放り出される。
「ばいばい」
扉が閉まり、鍵がかかる音がした。
もう手に力が入らなくて、握っていたナイフが地面に落ちる。どうにか助けを呼ぼうと、胸ポケットから携帯を取り出そうとした。しかし、血で手が滑り、柵の間から三階下の地面へ落下してしまう。
ああ……俺はとことん、運がないらしい。
最後にどうしても、兄を止めたかった。
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