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「あ……大丈夫ですか?」
薬品の匂いに目が覚めると、知らない女性がいた。
息を吸うと、自分の胸が上下する。どくどくと脈打つ心臓を感じた。
驚いた。……俺は、まだ生きてるのか。
「……君は?」
「繁田香織と言います。貴方の携帯を見つけて、マンションに……」
「……そう、か」
あの時、落とした携帯が、彼女を連れて来てくれたんだな……。
思わず涙が出そうになって、手で目元を覆った。死んだと思った命が戻って来た。
まるで、神様に「まだお前にはやることがあるだろう」と言われているようだった。
「助けてくれて、ありがとう……。でも後は大丈夫だから、医者を呼んでくれないかな」
「…………」
「…繁田、さん?」
彼女は、膝の上で手をすり合わせ、震えていた。何か言いたげに、こちらを見つめている。……いや、睨みつけていると言ったほうが正しい。
繁田さんは、意を決したように口を開いた。
「高月侑太郎を……知りませんか」
「……えっと…?」
「今年の三月に誘拐された、私の友人です」
その瞬間、今度の兄の被害者が男であることを知る。
彼女の瞳からは、逃げられそうになかった。彼女は確信している。俺が事件に関係があることを。
「教えてください。……貴方が、侑太郎を誘拐した犯人ですか?」
「はっ……」
凄く勇気のある女性だ。本当に俺が犯人だったら、どうする気だったんだろう。その握り締めた鞄の中に、包丁でもいれているのかな。
駄目だよ。そんな震えた手じゃ、あいつは殺せない。
「……ごめん、何を言ってるのかわからないな」
「えっ……?」
「俺、最近あのマンションを相続してね。親族でちょっと揉めたんだ。刺されるとは思わなかったけど……それだけだよ。……誰かと勘違いしているんじゃないかな?」
「っ………」
ああ、泣きそうだ。
……もしかして、侑太郎って人は、恋人だったのかな。
震える繁田さんの腕に、そっと手を添える。顔を上げた俺を非難するような目に苦笑した。
「大丈夫。侑太郎くんは……きっともうすぐ見つかるよ」
決めた。
彼女に救われた命は、彼女のために使おう。
殺すんじゃない。もっと上手くやるんだ。
奏英には、一度地獄を見てもらおう。
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