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「奏英……?」
一日の終わりに風呂から上がると、居間でテレビを見ていたはずの奏英がいなかった。
寝室を見てみると、まだ九時前だと言うのにもうベッドに横になっている。
なんだか気になって俺もベッドに上がると、軋む音に奏英が振り返った。
「侑太郎……髪乾かさないと風邪ひくよ」
「あぁ……それより、もう寝るのか?」
「……うん。ちょっと、疲れてて」
……疲れて?
奏英が疲れるところなんて、初めて見た。もしかして、今日買い物で人の多いところに出たからだろうか。いや、でもいつもは買い物でこんな風になったりしないし……。
柄にもなく、体調が悪いのかと心配する親のような気持ちになって、奏英の額に手を触れた。
「……熱はねぇみてぇだけど」
「……うん。侑太郎、あんまり僕に触らないで」
「…………は?なんで?」
意味わかんねぇ。さっきまでベタベタ纏わり付いてきたのはそっちのくせに。
奏英の困ったような笑みに、また腹が立つ。どうやら理由を話す気は無いらしいが、自分は良くて俺がダメなんて、なんだか不公平……。
いや、別にいいんだ。奏英に触れたいとかそう言うわけじゃねぇし……。
「……わかった。じゃあ俺テレビ見てるから……おやすみ」
「うん。……おやすみ」
複雑な気持ちで寝室を出て、居間のソファに座る。
平日の夜は、面白い番組がたくさんある。バラエティ番組を見ても、理不尽に憤ることもなくなって、ちゃんと笑えるようになった。
ぎゃはは、とテレビ画面の中で笑いが起こる。
いつもなら俺も笑っている場面なのに、なぜ笑っているのかわからなかった。全くトークが頭に入ってこない。具合の悪そうな奏英が気になって。
……もし、奏英が病気にでもなったら、俺はどうなるんだろう。
病院に連れて行く?でも、そしたら正体が誰かにバレて、奏英が逮捕されるんじゃないんだろうか。それを恐れて家で療養するとしても限界があるし、ましてや死んでしまったりしたら……。
「っ……はは、何考えて……」
わからない。なんでこんなに不安なんだ。
前の俺なら、チャンスとばかりに奏英が病に臥せっているところを逃げ出そうと画策するだろう。誘拐犯の心配なんかしてる余裕などなかった。
……でも、今は違う。奏英の側にいてやれる家族は、俺しかいないんだ。
気づけば、笑いの絶えないテレビを放り、寝室へ戻っていた。
ベッドには、奏英がこちらに背を向けて眠っている。
「……奏英」
「っ……え、侑太郎? どうしたの?」
まさか俺がまた来るとは思っていなかったのか、奏英は驚いた様子で振り向いた。
その顔は、若干赤く、汗ばんでいるように思える。
「お前……やっぱ具合悪いんじゃ……」
「……ははっ。ありがとう、心配してくれてたんだね。でも、違うよ。……そういうんじゃない」
ほんの少し、息が荒い。奏英が体を起こすと、ふわりと鼻をかすめる精の匂いに、ハッとした。
奏英は観念したように毛布をめくる。
「……ごめん。我慢できなくて……一人でしてたんだ。侑太郎にバレないようにと思ったけど、難しいね」
しばらく、驚き過ぎて何も言えなかった。
あの奏英が、こんなになるまで我慢するなんて、俺は夢でも見ているのか?
奏英のあの異常な性衝動は、怒りとか、不安定な気持ちからくるものなんだと思っていた。だから、安定しているときはしなくてもいいのだと。
しかし、違った。奏英だって、男だ。
「……ごめん、気持ち悪いよね。僕もお風呂入って……」
気づけば、申し訳なさそうに立ち去ろうとする奏英の腕を引き止めていた。
確かに俺は、奏英の奥さんではない。でも、キスはしている。それは、キスは気持ちいいからだ。
でも、奏英との性行為だって、嫌だけど、気持ち悪いわけじゃない。ただ、まだプライドが許さないだけで……。
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