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肉を突き刺す、静かで生々しい音が部屋に響く。それは何度も、何度も、竜也さんの背中を刺していた。
血溜まりが、フローリングの床に広がっていく。
一瞬、竜也さんの上にのしかかっているのが、誰かわからなかった。
「…………ん、ンン……」
「…………」
「ンぅ……。っう…………!」
呼び止めたいのに、声が出ない。動けない。
その間、奏英はずっと竜也さんの背中を刺し続ける。永遠とも思える時間。
返り血で、顔も、おしゃれな服も、綺麗な腕も、お揃いのネックレスも、指輪も、真っ赤に染まって汚れていく。
怖い。……俺の知ってる奏英じゃない。
せめて見ないようにしようと顔を逸らし、目を瞑った。規則的に続く鈍い音と反して、俺の心臓はバクバクと速度を増していく。
とろりと、ついさっき中に出されたばかりの竜也さんの精液が尻たぶを伝っていく感覚に身震いした。
なぜだかわからない。また涙が止まらなくて、俺は子供みたいに泣いた。
「…………ゆうたろう……?」
カラン、と、ナイフが落ちる音がした。
背後でベッドが軋み、奏英が近づいてくる気配。
血塗れの手が俺の体に遠慮がちに触れてきて、思わずびくりと肩が跳ねた。
こわい、こわい、こわい……。
どうして、こんなことになっちまったんだ。
俺はただ、逃げたくて、玄関の扉を開けただけなのに。
ああ、それがいけなかったのか。鍵を開けなければ、竜也さんは入ってこなかったかもしれないな。いや、そもそも、俺があんなDVDなんて見つけなければ、ずっと幸せなままだったかも……。
「侑太郎……ごめん、助けてあげられなかった……ごめん、ごめん……!」
奏英は、堪え切れない衝動をぶつけるように、俺を強く抱き締めた。
竜也さんの血液が、肌や服に染み付いてくる。
体の震えは、さらにひどくなった。
違う、そうじゃない。
いっそ、助けなくて良かった。放っておいてくれれば、俺は生きずに済んだ。
こんな地獄みたいな人生……。
やっぱり、死んだほうがマシだったんだ。
「あぁ……こんなに泣いて……すぐ、すぐにお風呂入れるから、待ってて。ごめん、侑太郎、僕のせいだ。ごめん、待ってて……」
奏英は、俺の口と体のガムテープを剥がすと、慌ててお風呂場へ向かった。
呑気なもんだ。こんな時に風呂だって? まだこんな茶番を続けるつもりなのかよ。
「…………」
待て、なんて命令を、もう聞く必要はない。
無理やり体に鞭打ってベッドから立ち上がる。
血まみれで横たわる竜也さんの死体を跨いで、寝室を出た。お風呂のお湯が流れる音を聞きながら、ふらふらと玄関へ向かう。
扉は、簡単に開いた。
そりゃそうだ。邪魔する奴は、もう誰もいない。
外は、パラパラと雨が降っていた。
少し懐かしい気もした。でも、もはやどうでもいいような気もした。
「もういい………………」
目の前の手すりに手をかける。今度は失敗したりしない。
下を見下ろすと、結構高くて安心した。これなら、今度こそ…………
「っ侑太郎!」
今度こそ、この世界から逃げられる。
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