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「香織、今日は俺が食器洗うから、お前はくつろいでろ」
あれから約六年が経ち、俺たちは二十八歳になっていた。
あの日から俺のことを付きっ切りで見てくれていた香織とは、三年を過ぎた日に入籍した。式は挙げなかったが、身内や数少ない友人は涙を流して喜んでくれた。
まさか、最悪な別れをした香織とこうなるなんて、思ってなかった。また関係を戻せたキッカケはあの誘拐事件だが、今は思い出の一つに過ぎないと思えるようになった。
普通の日常に、戻りつつある。
もう、あの日々を思い出すこともほぼ無くなった。
「……ほんと優しくなったよねぇ、侑太郎。高校の時とは大違い」
「その話はやめろ。あん時は俺もなんか、思春期、みたいな……」
「思春期でいじめとか、ほんと最悪だから。もし子供ができて、その子がいじめられたらどうすんの?」
「相手の親ごとぶっ殺す」
「ちょ、ブーメラン」
今日は、香織の誕生日。
肌寒い一二月、誕生日の次はクリスマスが待っている。その日は二人で暖かい温泉に行こうと話した。
いつか、俺たちに子供ができたら、今度は三人で行こう。気が早いかもしれないけど、もうすぐ三十歳になることだし、親だってそれを楽しみにしてる。
食器を洗った後は、テーブルの上の空になった缶チューハイやらビールやらを片付ける。香織のペースに付き合うと、こちらまで頭が回るほど酔わされるからつらい。
しかし、明日はお互い休みを取ったし、今日はぐっすり眠れそうだった。
「んーおかえり、ありがとね〜!」
「おお。じゃ、さっそくベッド行く?」
「気が……早い!! 今日はソファで寝る!」
「駄目だっつーの。お前の好きなアロマなんとかも用意してやったから、ほら、ベッド行くぞ」
「もーー」
駄々をこねながらも満更でもない香織をお姫様抱っこして、寝室へ運ぶ。
あれから俺も筋肉が付いてきて、やっと男らしい体つきに戻れた。あの時の体重は今の半分ほどで、医師にも大層驚かれたのを覚えている。
香織をベッドに下ろすと、アロマキャンドルの灯りが怪しげな雰囲気を醸し出してくれる。香織もスイッチが入ったのか、俺の首に腕を回して抱き締めた。
「侑太郎……」
「なに?」
「……好きだよ」
「…………」
香織がこんなことを言ってくれるなんて珍しい。酔っているからかもしれないが……。
「……俺も」
今更、言えるわけがない。その言葉がトラウマだなんて。
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