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『今日未明、赤桐市誘拐事件の被害者である高月侑太郎さんが、再び誘拐されたとの通報がありました。犯人は現在逃亡中の田渕奏英容疑者であり、彼は深夜に高月さんの自宅へ侵入しーー』
奏英は、今度はテレビを消さなかった。
おかげで、俺は見たくもない情報に耳を傾けざるおえない。俺が奏英に強姦されていたこと。香織に向かって謝ったこと。合意であるかもしれないということ。
また、この誘拐事件は連日トップニュースになるんだろう。専門家が俺たちのことを分析しだして、また病気だとか言われて、そうして、忘れ去られていく。
「侑太郎、ご飯できた?」
「……あぁ」
奏英が見つけた家とやらに、俺は連れてこられた。森の奥に建てられた誰かの別荘のようだが、持ち主は冬の間に来ることはないと奏英は言っていた。
だから、年が明けて春が来る前に、海外へと移住するらしい。そのお金はどこから来るのかと聞いてみたら、父親から手切れ金としてもらったのだと言う。
そういえば、その父親はどうしたんだと聞いてみたら、今は会社を辞めて、隠居しているんだとか。自殺とか、しないといいけど。
……でも、俺だったら、息子を殺して自分も死んでる。
「向こうに行ったら、まず何しよっか?」
「……仕事、探さないとダメだろ」
「ああ、そうだね。お金も無限じゃなくなっちゃったしなぁ〜。でも、侑太郎とならなんとかなりそう!」
「……あっそ」
仕事、か。ちゃんと仕事が見つかったとして、いつまで二人で暮らしていけるかわかったもんじゃない。奏英のことを追いかけて、警察が来るかもわからない。
もし、奏英が捕まったら、俺はどうしよう。もう日本になんか帰れない。香織にも、母さんにも、合わせる顔がない。
俺は、奏英を、誘拐犯を選んだクズ中のクズ。
「……ねぇ、侑太郎。後悔してる?」
「……え?」
「…………」
奏英は、長い前髪を短く切った。俺が切ってやったから、少し不恰好。でも、前よりはマシだ。
これから、どうなるんだろう。わからない。不安と恐怖しかない。でも……。
奏英の今にも泣き出しそうな顔を見ると、不思議と穏やかな気持ちになる。この感情がなんなのかわからない。また、病気とやらにかかっているのかも。
「……わからない。でも、俺は多分……いや、絶対、これから一生お前を忘れられない」
「え……」
「……お前が好きだよ、一生」
病気でもいい、この時、この一瞬の感情だけは、嘘じゃない。
奏英の嬉しそうな顔に、俺もまた嬉しくなる。同時に胸が締め付けられるような苦しみと、泣きたくなるような悲しみに、頭がごちゃ混ぜになる。
「うん、僕も……侑太郎のこと好きだよ、ずっと」
「……そうじゃなきゃ困る」
「ふふ……」
奏英は笑ったが、その目からは涙が零れ落ちていた。嬉し泣き? それとも違う?
わからない。お前は、わからないことだらけだから。
ーENDー
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