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季節は廻りその年俺は会社を辞めた。
4月になるとかねてより応募していた都内の美術予備校に通い始めた。
驚いたのはその年齢幅だった。下は高校一年生から、上は俺の知っている限りでは30代の人もいた。
講義は驚きの連続だった。
道具の使い方も、知識も、考え方も、俺は全然何も知らなくて。
それでも描いて、悔しくて泣きそうになって、また描いて、ダメだしされて、また描いて、作って。
同じ美大を目指す仲間に支えられて。
数えきれないくらい泣いて、注意されて、鉛筆を削って、紙をだめにして。
雄高の前でもかっこ悪いとこばっか見せて、その度に励ましてもらって。
大事な瞬間でも何度か失敗して、もう3年が経っていた。
そして俺はようやく京都にある美大に合格が決まった。
引っ越しもあわただしく終わり、明日俺は新幹線に乗って京都へ行く。
だから最後の夜を雄高の家で過ごしていた。
「…慎」
「なに?」
豪華だった雄高の夕食も終わり、ベットの上でくつろいでいると雄高が隣に座ってきた。
「…もう何回も言ったけど、合格おめでとう」
「ありがとう」
「俺…今だから言えるんだけど」
「…え?」
「もう無理だと思ってたんだ、美大に行くの…」
それは思ってもみないことだった。
俺は去年滑り止めにしか受からなかった時、自分で決めたけど一度受験を辞めようとした。
自信があったのだ。模試でもいい判定をもらえていたし、自分に力がついてきたと本当にそう思っていたのだ。
でも、それでも受からなくて…辛くて、もう無理なんじゃないかと諦めたとき、雄高だけは俺に諦めるなと本気で言った。
『だってずっと描いてじゃないか…学校でも、家でも、俺がいても…慎がどれだけ頑張ってたか、2年も見てた。いいのかよ、辞めても…』
恥ずかしかった。
いつからか俺は頑張っている自分を誰かに認めてほしいと思っていたんだ。
こんなに俺は頑張っている、がんばっている、ガンバッテイル…
美大でもっと勉強することが俺の夢だったのに。
自分を見てくれる人なんてこんなに身近に居てくれたのに。
雄高に言われて俺はまた頑張ることができた。
だからてっきり応援してくれているのかと思っていた。
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