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お姫様みつけた
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小学校にあがって2年と半年が過ぎた昼休み、朝比奈 悠(あさひな はるか)は図書室に向かっていた。立花 梓(たちばな あずさ)に会うために。
梓とは一年生の時に出会った。彼は母方の曾祖父がスウェーデン人だそうだ。席が隣だった彼は亜麻色の髪に綺麗な顔で静かに本を読んでいた。『翡翠色のリボン』という本で、よくある王子さまが囚われたお姫様を助けにいく、という話だ。あとで知ったことだが、どうやら梓は王子様よりもお姫様に憧れていたらしい。
悠には梓のようなタイプの友達がいなかったので、仲良くなりたいという気持ちとちょっとした好奇心で、悠は梓にたくさん話しかけた。最初は反応が薄いのか過剰なのか何を聞いてももごもご言って俯いてしまっていた梓も、今でもたまに俯いてしまうが、悠とは普通に話せるようになっていた。
梓の動きはいちいち丁寧で、あの本をいつも大事そうに抱えている。大人しい梓に対して、悠は何時も外を駆け回って遊んでいるような、典型的な元気な少年だった。故、気づけば梓の言動(主に行動だけだが、)を気にしている自分がいることに嫌でも気付かされた。
最初はそれこそ物珍しさからくるそれのようなものだと思っていたのだが、梓と過ごすうち、また悠自身が成長するにつれ何か特別な感情であることを理解するのにそう時間はかからなかった。そしてついさっき、梓のよく読んでいる『翡翠色のリボン』を思い出して自分が梓に対して抱いている感情は恋なのだ、と気付いた。否、気づいてはいたのだが、認めることができなかったものをようやく認めることが出来たのかもしれない。
気づいたその気持ちを一刻も早く確かめて伝えるべく、彼は今走っているのである。
「あずさ!」
図書室の扉を開くと同時に彼の名を呼ぶ。その場にいた人(と言っても数人だが、)が一斉にこちらへ振り向く。彼がそんなことを気にするはずもなく、梓のお気に入りの読書場所である本棚と本棚の間、一番奥の隅へ向かう。
「あ、あずさ!」
書架の影から美少年がこちらを向く。どうやら悠の声は聞こえていなかったようだ。本に熱中すると周りが見えなくなるのは彼の悪い癖であり、飽きっぽい悠にとってはそれだけの集中力に対して尊敬するところでもある。そして今梓を見て、自分の梓に対する感情が恋であることがこれでもかというくらいはっきりと理解した。
「あ…はるか…」
梓が小3の男の子にしては少し柔らかい、可愛らしい声で呟く。彼が読んでいたのは、『儚き人狼』という、これまた中学年の、それも男の子が読んでいるとは思えない量のあるお伽噺がいくつも入っている本である。悠はそれを見ていつもの笑顔を一層明るくすると、梓の手を引いた。
「あずさ、ちょっと来て!おれ、言わなきゃいけない!」
「え…な、何を?ここじゃダメ、なの?」
「うーん、ダメじゃないけど…………『やっぱこーゆーのって、フンイキ?大事にしないとやじゃん?』、?」
焦って頭が真っ白になってしまったので、先日姉が見ていたドラマの台詞をいってみる。因みに意味は半分もわからないが。たぶん使い方はあってるはず、だ。
「雰囲気?…どーゆーの?」
「あーもういいよ!わかった!ここで話すから!」
「あ…ごめん」
「いや、べつにあずさは悪くないんだけど…」
「…そうなの?」
「うん。……オレさ、あずさのこと“スキ”なんだと思う…」
「僕もはるかのこと、大好きだよ?」
「あーうん、そーなんだけど、オレのはお姫様と王子さまの“スキ”ってゆーか…」
「はるかが僕の王子さまになってくれるの?」
そう。梓はお姫様に憧れている。 “お姫様”自体と言うよりも、正確には“王子さまと素敵な恋をする”お姫様に憧れているのだ。
「いや、オレはあずさの王子さまになりたいんだけど、でもあずさはさ、男、やじゃねぇの?」
「え?何で?……僕、はるかのこと、“ダイスキ”だよ。いつも言ってるじゃん」
「あずさはオレのお姫様になるのやじゃない?」
「………………………………はるか、の」
「ん?」
「……ずっと、はるかの、お姫様になりたかったから」
梓はいまにも消え入りそうな声でそう呟くと、持っていた本で顔を隠してしまった。本の陰からちらっと悠の方を見ると、悠はいつもにこにこさせている顔を真っ赤に染めていた。
「「…………」」
暫しの沈黙。それでも、彼らにはとてつもなく長い時間に感じられた。
「オレの…」
「オレの、お姫様になってください!」
「…っ!は、い…」
そう言って悠は梓の口に軽く触れるだけのキスをした。
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