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涙の王子
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――遠くで悠が泣いている。行かなきゃ。僕が慰めないと。……“行かなきゃ”?悠には、瞬がいるじゃないか。僕はもう必要ないんだ。瞬は何をしているんだ。早く悠を慰めてあげないと。きっと沢山涙を流している。…あぁ、でもきっと僕のためにはもう涙を流してくれないんだな。
「…さ、あ、ずさぁ…っう、あ”ずさぁっ…」
「ん…」
辺りを見渡すと、見覚えの無い真っ白な部屋に悠が1人、涙でブランケットを濡らしていた。ベッドには――僕がいる。
―ああ悠、泣かないで。悠が僕を嫌いでも、僕は悠に泣いていてほしくはないから―
「は、るか…?」
「っ!あずさ!?あずさっ!」
悠が勢いよく抱き締めてきて、全身が悲鳴を上げる。
「い”っ!?いた、い、いたいっ!はるかっ」
「ご、ごめん…」
そうか。僕はあのとき階段から落ちたんだ。それで。それで…それで、何で悠がここにいるんだ?僕のことは嫌いだから、顔も見たくないんじゃないのか?
「…なん、で」
「何で、悠が、こにいるの」
「え?」
「はるか、は…悠は、僕のことがもう嫌いになったはずなのに、何で悠がここにいるの」
「オレ、あずさのこときらいなんかじゃないよ?スキだよ……」
「瞬は?」
「なぐさめてもらってた」
「…?」
「オレさ、このまえ見ちゃったんだ…姉キのマンガ。」
「、うん。」
「オトコどうしで好きな人たちがやることがかいてあった。」
「…なにするの?」
「……。」
悠は無言で彩葉の漫画を差し出した。恐る恐る手にとって、真ん中の辺りのページを開いてみる。
「っ!?」
ぼばばっ、とこれ以上無いくらいに赤く顔を染める。
「こ、これ…するの?」
「…うん。するんだって。」
「……はずかしい」
「ん、。…」
悠の挙動不審の原因が分かったのは良いものの、新たな問題が残ってしまった。どうしたものか。
「…それ、かして?」
「えっ」
「べんきょうしてくる。」
「う、うん。」
とりあえず、どうすればいいかを知らないと話にならない。無駄な行動力を発揮して、無自覚にそちらの道を暴走しようとする梓。彼を止める人はいない。
「あ、そうだあずさ。お医者さんが、しばらく治るの待ってけんさとかもするから1週間くらい入院することになるっていってたよー」
「…ながいね」
「うん。あずさと学校で会えないの、さみしーなー」
「ふふっ、でもそのぶんいっぱいべんきょうしとくね」
「え”っ」
梓が入院している1週間の間、悠は毎日梓に会いに来て遅くなるまで喋って帰っていった。
退院してからも、本当はもう元気なのだが、悠が常に気に掛けてくれるので敢えて何も言わなかった。
「なーあずさ。今日姉キさ、友達の家に泊まるから家にいないんだってー」
「…うん。遊びにいっていい?」
「すぐこいよー」
「わかってるって」
「おーあずさ、はやかったなー」
「うん、まあ。…これ、ありがとう」
「お、おう。」
あずさは例の漫画を悠に渡した。もうなにもツッコむまい。
悠の部屋へ行き、悠がお菓子と飲み物を持ってくる。彩葉が用意しておいたホットケーキを温めたものとルイボスティーだ。彩葉、お前はエスパーか。そんな超人姉貴の話はさておき、2人とも無駄に緊張していて、ホットケーキもあまり減らない。
「あ、メープルシロップわすれた」
悠はそう呟くとだだだ、と階段を駆け下りてメープルシロップをとりにいった。悠のの部屋に入るのは2度目だが、前回は夜だったのでじっくりとは見ていない。悠の部屋にはほとんど物がない。確かに悠から好きなものの話を聞いたことがないな、と思った。
「おまたせー」
悠が持ってきたメープルシロップをたらして、2人はホットケーキを少しずつ食べていった。
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