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思い出作り 3
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「いいとこ」
一呼吸おいて梓が答える。持ってきていた交通系電子マネーで悠の分の切符を買う。
「ちょ、梓…なんで買ったの」
「電車乗るから」
「どこ行くの」
「ひみつ」
交通系電子マネーを持ってきていたあたり、初めから計画していたのだろう。習い事もしていない小学生が電車を使うことなんてほとんどないので、どこに向かうのかなど全く分からない。
「…梓。何分ぐらい乗る?」
「んー、20分くらい」
何も見ずに梓はそう答える。よく行くところにでも向かっているのだろうか。特にそわそわした様子もなく、少し混んできた車内で電車に揺られている。夕陽が彼の亜麻色の髪の毛に反射してキラキラ輝いて眩しい。この前梓が作ってくれたマロングラッセみたいだと思った。彼の髪の色はスウェーデン人の曽祖父から受け継いだもので、彼の母親も祖母も同じような髪の色をしている。
そんなことを考えながら流れていく景色を眺めていると、梓に次で降りると言われたので、次の廻鳴宕(みなす)駅で降りた。改札を出るとまた梓に手を引かれ、今度は2人で歩く。閑静な住宅街を3分程歩いて、周りよりも明らかに大きい1つの屋敷の前で立ち止まる。梓がインターホンを押すと男性の声がして、門が自動で開かれた。
門の中へ躊躇いもなく入って行く梓を追いかけて悠も慌てて屋敷へ足を踏み入れる。門の中には外から見えたものよりも遥かに大きな建物が長い長い石畳の先に見える。敷地内には他にも幾つか建物があり、それぞれの建物までの道のりの花壇や庭木も丁寧に剪定されていて、外観に気を使っていることが目に見て取れる。
玄関と思われる大きな扉へ着いたところで、高い位置についている獅子モチーフのドアノッカーを叩く。直ぐに扉が開かれ、中には見たこともない位に大きな玄関と奥へ続く長い廊下、広い階段が黒や焦げ茶で統一されてモダンな雰囲気を醸していた。その広さに気圧されたじろぐ悠を余所に、梓はつかつかと奥に立っていた50代前半くらいの少し白髪の混ざった男性の元へ歩みを進める。
「譲治さん。」
「いらっしゃい、梓君と悠君」
「梓、誰?」
「僕のおじいちゃん」
「若っ…」
「ははっ、さぁ上がって」
「はーい、お邪魔しまーす」
「おじゃまします」
どうやら梓は譲治さんの前では割とオープンになるらしく、口調が明るい。譲治さんの服は落ち着いた明るさを持ったすらっと見えるスタイルで育ちの良さが溢れていた。
悠のうちとは比べ物にならないくらいの広さの客間へ通される。ふかふかのベッドが一つ、アンティーク調の豪奢な箪笥と鏡台、ナイトテーブルが一つずつある。出窓の部分にはレースのカーテンがかかっていて、外から差し込む夕陽を和らげている。ベッドには天蓋が付いていて、お姫様みたいだと思った。
…と、そうじゃなくて。
「梓、どういうこと?」
「…どうってこう」
「いや、全く分からない。」
「今日は、譲治さんの家に泊まる。彩葉さんにもれんらくしといた!」
「…学校は?」
「休む」
「…サボるの?」
「ううん、休むの。僕は腰が痛くて、悠は身体が怠いから」
「あのさぁ、意味分かって言ってる?」
「悠わかんないの?」
「ふーん…さそってるんだ。」
「まぁね」
今日の梓はおかしい。というよりも、さっきから梓がおかしい。どうもいつもの梓とは何かが違う。堂々としていると言うか、物怖じしていないと言うか。親戚の家だからかな。でも、それ意外にも何かある気がする。梓が学校を“休む”なんて。どうしたのだろう。
部屋のベルが食事の時間を告げる。階下へ降りて豪勢な食事の並べられたテーブルにつく。…3人でこの量は多すぎる。それでも、今まで食べてきた美味しいものとは違った新しい美味しさで、次から次へと食べているうちにほとんど完食してしまった。この料理は誰が作ったのだろう。
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