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牛印の石鹸で煩悩を洗う-4
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「葵琉先輩、お背中流します」
沢井流の風呂では昔からの習わしで後輩が兄弟子の背中を流すのが暗黙の了解とされているからと言って虎太郎にタオルを取り上げられた。
「痛い」
力任せに背中を擦られて椅子から飛び上がった。
そりゃあシロとか悠夜おじちゃんみたいな怪物を洗うのと同じ力で普通の人間を洗っていいわけがないんだ。
「すみません」
虎太郎はタオルを脇に置いて素手に石鹸を泡立てて身体を洗ってくれた。
「葵琉先輩のお肌、白くてスベスベですね」
「そう?」
「はいっ!」
……。
体を隅から隅まで洗ってくれる虎太郎の手は優しくて気持ちいいけどシロにも同じ事をしてるのではないかと気が気でない。
聞いてみたいけど……。
気になって仕方ないけど虎太郎がシロのあんな所やこんな所を洗っているんじゃないかと想像したらその勇気が沸いてこない。
虎太郎は身体を洗った石鹸を泡立ててそのまま頭を洗ってくれるがモヤモヤ感に取り付かれていてしばらく気付かなかった。
「お前それ石鹸じゃないの!?」
「はい! そうですよ」
「そうですよ!じゃなくて~シャンプーは?」
「そんなのないですよ」
「はぁっ!? 嘘だー」
だから知らない家には来たくなかったんだ!!
シャンプーがなければリンスもない。トリートメントなんてもっての他。
あるのは牛のマークがレリーフされた白い石鹸だけ。
真面目な虎太郎がコンビニに行って買って来ると言うのを「いいよ、もう」と制止した。
石鹸なんかで頭を洗うのは初めてだから明日の朝がとても心配だ。
さすがアスリートだけあって、虎太郎のベッドはマットレスもいい物を入れているので寝心地は申し分ないがドリンクバーのコーヒーが悪さをして全くもって眠くならない。
寝ようと思えば思うほど目が冴えてくるので仕方なく目を開けていると、横向きに寝る人なので必然的に虎太郎の姿が視界いっぱいに入る。
豆球のほんのりとした灯りの下、見るともなしにその横顔を見ていると気配を感じたのか虎太郎が振り向いた。
「寝られませんか?」
「んー」
「ホットミルクでも持ってきましょうか?」
「……大丈夫」
甘いホットミルクは穏やかに眠気を誘ってくれそうで魅力的だけど虎太郎は明日も朝イチで練習があるから早く寝かしてやりたい。
「あ……」
止めようとする間もなく虎太郎は下に降りていってしまった。
シロと悠夜おじちゃんの付け人をしているだけあってフットワークの軽さは他の追随を許さない。
5分もしないうちにトントンと軽快な足音をさせて虎太郎が戻ってきた。
「葵琉先輩」
「なに」
「笑わないで……聞いてくれますか」
「何、改まって」
ほどよく甘味の付けられたホットミルクを口に運ぶ。
「俺、誰かと遊びに行くのって本当に久しぶりだったんです」
「虎太郎、友達いないの」
「いや、そうじゃなくて。沢井流の稽古が土日も朝から晩まであって」
「シロは昼で帰ってくるけど」
「志朗兄さんは師範長になられたんで」
師範と師範長と何がどう違うのか一般人の俺にはチンプンカンプンだけど師範長とやらになると待遇はぐっと変わるらしい。
「今日、何年かぶりに遊びに行ってみて、いつか好きな人と来れたらすごく楽しいだろうなぁと思いました」
「何? 俺とじゃつまんないって言いたいの?」
「そんな事ないです。こんな楽しかった日初めてです」
ちょっとからかってみたつもりなのに慌てて真面目に答えようとする虎太郎が面白い。
「憧れてた葵琉先輩とこんなに気軽に喋れるようになれて俺すごく嬉しいんです」
憧れなんて言ってくれる人は居ないから口の辺りがムズムズして頬が勝手に緩もうとする。
そんな反応をしてしまう自分が何とも居たたまれなくなって話を逸らす。
「シロってさー、本当は虎太郎が好きなんじゃないのって思う時が結構あるんだけど」
「えぇっ!?」
「だってシロさ、いっつも虎太郎の事ばっかり誉めるし」
「何言ってるんですか! 志朗兄さんはいつも葵琉先輩の話ばっかりしてるんですよ」
「嘘だー!?」
虎太郎の事ばっかり誉めるのもあれだけど、俺の話を他所でされるのはもっと困る。
「本当ですって。買い物にお付き合いしても葵琉先輩に買ってあげたいものばっかり見るし。美味しいもの食べると葵琉先輩に食べさせてあげたいってそればっかりですよ」
虎太郎が勢い良く捲し立てる内容は俺の知らないシロの一面で複雑な気分になる。
「あまりに葵琉先輩の名前ばっかり言うから合宿の時に、……あ」
虎太郎は滑ってしまった口を慌てて押さえるけど口から出てしまった言葉はもう戻らない。
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