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つきごころ-4
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出ていった時には長かった瀧川先輩の髪は何故かツンツンと立つ程に短くなっていた。
「シロに切られたの?」
ただでさえ体力自慢のシロのことだから、直談判に来た瀧川先輩を捕まえて返り討ちにしかねない。
「違うよ。さっきお前と約束しただろ」
「あ……」
さっきそんな約束をした気がする。
ずっと髪を伸ばしていた月灯が切ってくる筈がないと思っていたので適当に返事をしたのに。
「ほら、行くぞ」
瀧川先輩が二人分の鞄を持って戸締まりを始めたので仕方なく立ち上がった。
「鍵、志朗んとこに置いてくるからここで待ってろよ」
一瞬このまま帰ってしまおうかと思って2、3歩歩き出したけど、財布からスマホまで人質に取られているのを思い出して生徒会室の前に戻った。
それに、今瀧川先輩を裏切って帰ったら、せっかく仲良くなったのにこれっきりになるだろう。
瀧川先輩が長く伸ばしていた髪を切らせた責任もあるしやっぱり逃げてはいけない。
悠夜おじちゃんが働いている店へは徒歩5分。
あれこれ考える間もなく着いてしまった。
俺が逃げると思ったのかな、店の前で解散かと思ったのに瀧川先輩は中まで一緒に足を踏み入れた。
あーあ、やだなー。
可愛くなくなったらシロに捨てられるかもしれない。
でも、自分のワガママで巻き込んでしまった先輩の気持ちには応えなきゃいけない。
悠夜おじちゃんの顔を見て腹を括る。
瀧川先輩と同じ長さにしてほしいと言うと悠夜おじちゃんは愉快そうな表情になった。
「へえ~。もしかして志朗と別れて今度は月灯と付き合うの?」
「そんなんじゃない」
悠夜おじちゃんはシロの兄弟子だし、沢井流の次期世継ぎになると目されている人間だから流石のシロもこの人にだけは頭が上がらないんだ。
「志朗も月灯も面白味がないから俺にしとけば?」
悠夜おじちゃんにはシロとキスをしている現場に踏み込まれた事があった。
ただでさえ色々ちょっかいを掛けてくる人だったのにそれ以来シロの目を盗んではこうやって口説いてくるようになった。
面白がってるだけなのは火を見るより明らかなのにギリシャ彫刻みたいな美形に迫られるとドキドキするからやめてほしい。
どれだけアピールしてきても自分にはシロしかいないというのに。
「おじちゃん」
「何」
「やっぱりさ、可愛く見えるように切って」
瀧川先輩に対する申し訳なさが心を奮い立たせてくれていたけど、今まで伸ばしていた髪が豪快に切られて床に滑り落ちていくのを見ると急に怖くなってきたのだ。
「はぁ? だったらもっと早く言えよ」
「ごめん」
悠夜おじちゃんの言うことは尤もなんだけど、今ごろになって急に怖じ気づいたんだからしょうがない。
「もう手遅れだ。諦めろ」
「えーっ」
振り向いた顔は即座に前に向き直される。
「なぁ……1個聞いていいか」
「何?」
「お前はあいつの何処が好きなんだ?」
「シロの……うーん」
シロの好きな所……こう改まって聞かれると咄嗟に出てこない。
初めて出会った時に白鷺の如く所せましと舞台を駆け巡っていた姿。
その姿に魅せられて入学してからシロとの邂逅を待ちわびて……。
やっと再会出来たのにシロは自分の事を覚えて居なかった。
でもシロの心の中にいつも自分が居ますようにって写経をしながらお願いして……。
「お~い」
ハッと現実に戻ってこれば悠夜おじちゃんがピラピラと目の前で手を振っている。
「わかった。何かいっぱいあるのはよくわかった。で、あいつはお前の何処が好きなんだ?」
シロが自分を好きなところ。
困った……今度は1つも思い浮かばない。
「見た目云々で好きだの嫌いだの言う。お前の惚れた男はうわべでしか人を見られないその程度のやつなのか」
「違う」
これは間違いない。
シロはそんな人間じゃない。
けど、どうしようもなく不安になってしまうのだから。
「振られてこいよ。そんで俺と楽しく暮らそうぜ」
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