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つきごころ-5(完)
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外に出て時間を見ると午後7時30分。
東の空には大きくて紅い月が低い所で輝いていた。
「先輩、見て! ほら、でっかい月!」
これでよかったんだ。
これで先輩に対してもこれから後ろめたい思いをすることもないから。
何処にも持っていきようのない感情とは賞味期限の短い生鮮食品のようなもので、そのままにしておくとどんどん悪くなっていく一方だ。
『先輩への義理立て』
そう思い込む事で何とかこの感情を処理しようとする。
頭の中は整理がついたけど、心の奥に掛かった靄はシロと顔を合わせて結果を得るまでこのまま晴れてくれそうにない。
「先輩とお揃いにして貰った」
「そうか、よく似合うじゃないか」
俺の姿を認めた先輩は一瞬びっくりしたように目を見開いたけど、すぐに目を細めて微笑んでくれた。
「ありがと、月灯先輩」
「どういたしまして」
今日できたばかりの新しいともだちが誉めてくれた事で、それまで真っ暗だった心にポワッと灯りが点った。
「どうせなら顔も先輩とお揃いにしてって言えば良かった」
同じ髪型にしても整いすぎた顔の先輩には及ばないのが悔しくてそんな事を言ってみると、月灯先輩は牛乳とおにぎりを同時に口へ突っ込まれたような表情を浮かべた。
「どうしたの?」
「俺の顔したお前が志朗とイチャついてる画が頭ん中に侵入して来たんだよ」
「……うん」
来たときはまだ顔を出していた夕日も完全に沈んでしまい、辺りは既に真っ暗になっていた。
「今日はもう遅いから再指導は明日だな」
「うん」
何だか色々とホッとしたら急にお腹が空いてきた。
「飯でも食って帰るか?」
「行くっ!」
落ち込んでても楽しくしてても明日は同じように来るんだから、どうせなら今日という時間を楽しく過ごしたい。
明日への不安を吹き飛ばすように大きく頷いた。
(完)
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