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眠り姫(白)-3(完)
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ボタンを留める……筈だったのに、俺の手は宙を彷徨って彷徨ってそのまま戻ってきた。
何やってんだ、俺?
早くしないと、葵琉が目を覚ましてしまう。
心ではわかっているのに、ボタンの留め方を忘れてしまったかのように手が動こうとしない。
スーッ――。
突然、見えない力で押されたかのように身体が前のめりによろめいた。
「!」
ちょうど鎖骨のあたりに鼻をコツンとぶつけて、今度こそ起こしてしまったのではと身構える。
だけど、葵琉は平和そのものの表情で寝息を立てている。
ちょっとだけ――。
うっかり顔をぶつけてしまったのとは違って今度ははっきりと意思をもって顔を近付けた。
クーラーがよく効いているからか少し冷んやりとした肌は滑らかな潤いに満ちていて、上下の唇で軽く挟むと、プールでスイスイと泳ぐ葵琉の姿が頭に浮かんだ。
距離感ゼロで感じられる塩素の匂いに引き寄せられるように、唇の間から舌を伸ばす。
整髪料とか制汗剤とか、そんなものの匂いはプールで全部洗い流されたんだろう。
飾り気の全くない限りなく透明に近い状態だから、肌の滑らかさだけがダイレクトに伝わった。
跡が残らないように思う存分唇で啄んでから、最後に思い直して紅い印をひとつだけ付けた。
「好きだよ」
面と向かってはなかなか言えない台詞をここぞとばかりにぶつけてみる。
葵琉との間でいつもやり取りしている「好き」は色とりどりの金平糖みたいなコロコロとした「好き」なんだ。
だけど、俺の心の底には熱く沸き立つマグマのようなドロドロとした「好き」も確かに存在していて。
それを今まで葵琉には伝えた事がなかった。
そしてこれからも伝える機会があるのか分からない。
いつか、伝える日が来たらこの関係もちょっとは前に進むのかな。
今度こそボタンをきちんと留めたところで、スピーカーから完全下校のアナウンスが流れた。
それでも目を覚ましそうにない葵琉をそっと抱き上げて、部屋を後にした。
(完)
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