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沢井家錦鯉秘話(SIDE鯉)
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◎葵琉と鯉のほのぼのストーリー
――――――――――
皆さん、初めまして。
私は沢井家の池に暮らす鯉です。
他の仲間たちに比べて小柄なのですが、白地に紅い1本線がチャームポイントだと思っています。
そんな私の悩みは小さい体のせいか食事時にどうしても出遅れてしまうこと。
体の大きい鯉たちにガンガンぶつけられると全くエサにありつけない日もあるのです。
このままエサが食べられないままでは、いつまで経っても仲間の鯉たちみたいな大きな体になれません。
どうか、少しでも強くて大きい体になれますように。
池から見える観音さまの像に毎日お願いしていたら哀れに思われたのか、ついにある日夢にまで見た出来事が起こったのです。
その日、夕食時に池のほとりに現れたのはいつもの志朗坊っちゃんではなく、見たことのない少年でした。
沢井流学園の制服を着ているけれど、志朗坊っちゃんよりも幼く見える少年がエサを撒くと、仲間の鯉たちがスーッと集まってきて、あっという間に食べ尽くされてしまいました。
「お前、どんくさいな」
いつものように出遅れて、エサの撒かれた場所に近寄れもしない私を目の当たりにした少年は呆れたように言い放ちました。
どんくさいんじやないんです、体が小さいだけなんです。
口をパクパクさせてそう訴えても、私の声は少年には届きません。
ん?
口の中に違和感が。
この味は!
「命中~!」
何と、あの少年が私の口目掛けてエサを投げ入れてくれたのでした。
その後も、少年は「今日もどんくさいな」と言いながらも口にエサを投げ入れてくれました。
「葵琉、ここに居たの」
この声は志朗坊っちゃんです。
私の命を支えてくれている少年は「まもる」君と言うのですね。
「あ、シロ。練習終わった?」
「うん、今日は悠夜兄さんが夜から用事あるからってこれで終わり」
「そ。シロ、あの白地に紅い線の入った鯉は何て名前?」
「名前は特に付けてないけど何で?」
「どんくさいからいつもエサ食べそびれてる」
だから、どんくさいんじゃないんですってば~。
「そうなのか?」
「俺がエサあげるときは口に直接ほりこんであげてるけど、シロもたまには見てあげて?」
「わかったよ」
何とお優しい。
これで、まもる君が来られない日にもエサにありつけるかもしれません。
どんくさい発言はなかったことにしましょう。
「名前付けない?」
「いいよ。じゃあ小さいからチビは?」
チ、チビ?
これから大きくなるこの私の名がチビですと!?
「え~っ? もっと格好いいやつがいいし。チビって何か犬みたいじゃん」
ありがとうございます、まもる君。チビは嫌です。
「じゃあ何がいい?」
「ドン」
「お、いいな。何かの組織のボスみたいで格好いいし」
いいですね、ドン。
いつの日か誰よりも大きく育った私はここの鯉たちを束ねるドンになるのです。
楽しそうに話しながら母屋へと戻ってゆくお二人の声はここまで聞こえないけれど、きっと私がどれだけこの池の主に相応しいかを話してくれていることでしょう。
「でも何でドンにしたんだ?」
「どんくさいから」
(完)
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