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シロさんの聞き耳頭巾-1(SIDE志朗)
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◎志朗が衝立の陰に居るのを知らない悠夜と葵琉の口から次々に問題発言が!?
――――――――――
年越しお汁粉騒動から数日が経ち、何事もなかったかのようにいつも通りの日常が戻ってきた。
「悠夜おじちゃんってさ」
「悠夜兄さんがどうした?」
「いつか沢井流を継ぐんだよね?」
「ああ、そうだよ」
「なのに何で美容師やってるの?」
葵琉が疑問に感じるのも頷ける。
流派の後継者になるのであれば、今のうちから四六時中指導や自分の稽古に時間を割くべきではないのかというのは確かに正論だ。
だけど今の道場長は「沢井流だけではなく、社会に出て様々な経験を積むことで広い視野で物事を見通せる力を養って欲しい」と、悠夜兄さんに異業種へ就職する事を課した。
中には「自分の血を引いたものに後を継がせたいから追い出した」なんて穿った見方をする人間も居るが、それだけは絶対ない。
長兄は寺院の仕事があるし、ユキは沢井流の稽古が大っ嫌いだし、俺に至っては後を継ぐ気なんて更々ない。
悠夜兄さんが居なかったら沢井流の歴史は途絶えてたかもしれないな。
「そういうわけで、まぁ平たく言えば『社会勉強』ってやつだよ」
「へ~。その割にはしっかり美容師やってるよね」
「適性があったんだろうな。そうだ、今から悠夜兄さんとこ行くか」
「え~、寒いから外出たくないし」
渋る葵琉を、新学期が始まると店が混むからと説き伏せて連れ出した。
「何だ、休みか」
寒い寒いと文句を言う葵琉を自販機のホットレモンで誤魔化しながら悠夜兄さんの店に辿り着くと『定休日』の看板が掛かっていた。
「また明日来るか」
葵琉を促して引き返そうとすると、中からドアが開いて兄弟子が顔をだした。
「おう! いいところに来たな」
出し惜しみなく披露された満面の笑みに嫌なよかったしかしないからこのまま帰りたいけど、沢井流のヒエラルキーは絶対だ。
「ちょっと頼まれてくれないか」
「何を……ですか?」
この人の我が儘は、こないだの餅つき騒動でもう懲りた。
大晦日から元旦まで二年越しで他人を巻き込んでおいて、本人は信じられない事にドタキャン。
まさか今度は、この寒いのに流し素麺をしたいから竹を切って来いとか言い出さないだろうな。
「簡単な事なんだよ。宅配便が来るから代わりに受け取ってくれたらいいだけだ」
「宅配便……ですか?」
てっきり訳のわからない提案をされるとばかり思っていたので拍子抜けだった。
お礼に無料で髪を切ってくれると言うけど、だったら自分で受け取ったらいいのでは?
「俺、6時から大事な用があるんだよ」
悠夜兄さんの手に握られたカラフルなチラシが目に入って、大事な用とやらはすぐに想像がついた。
「そんなとこ居ると寒いだろ? ほら、入った入った」
葵琉もろとも半ば強引に中に招き入れられてしまい、これはいよいよ積んだなと諦めの境地一歩手前に至る。
「どっちから先やる?」
「俺はいいよ。シロについてきただけだから」
「じゃあ志朗こっちな。葵琉、そこにカップのお汁粉あるからお湯注いで食べていいからな」
指差す先に目をやると、インスタントのお汁粉がピラミッドのように積まれていた。
「悠夜兄さん、そんなにお汁粉好きでしたっけ?」
「いや? ただこないだから無性にお汁粉が食べたい時があるだけ」
だったら周りを巻き込まず、一人でやっててくださいよと言いたいのをグッと呑み込んだ。
いつものように手際よく髪を切って貰って、まだ時間があるという兄さんに葵琉を任せて、道場で使う書類のコピーをしにコンビニへ行ってきた。
定休日で自動ドアのスイッチを切ってあるから、ガラスを手動で細めに開けて中に身体を滑り込ませる。
「もうっ! これじゃあ短すぎるよ」
「あ? お得でいいだろ? オマケだよ、オマケ」
「そんなオマケ貰っても嬉しくないし」
暖房の効いたお店に戻った途端、耳に飛び込んで来たのは二人のギャーギャー喚く声だった。
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