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アメイジンググレイス
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◎もうすぐクリスマス。お寺の子である志朗のお家では――。
――――――――――
「これ、いいの?」
「何が?」
「だから、これ」
俺がシロに突き付けたのは、今シロの部屋で流れてるCDのケース。
「気に入ったなら持っていっていいよ」
「ありがと」
この曲めっちゃ気に入ったから明日持って帰る。
じゃなくて。
俺が疑問なのは仮にもお寺の息子であるシロが自室でクリスマスソングを流しててもいいのかってこと。
その疑問をぶつけるとシロは何だそんな事かと笑った。
「好きなんだよ、アメイジンググレイス」
俺も、好き。
何か、優しい気分になるというか心の表面に付いた錆を洗い流してくれる感じがするから。
曲が変わって今度流れてるのは「聖しこの夜」。
アメイジンググレイスよりもクリスマスに直結だから、お寺のお家で聞いてるのは何かめっちゃモゾモゾする。
クリスマス、シロは何して過ごすのかな?
ちょこっとだけでも俺と過ごす時間あるといいな。
壁に掛けられたカレンダーには24日も25日も何も予定が書いてない。
「今年のクリスマスも練習か……」
俺につられてカレンダーをチラっと見たシロはやれやれと言うように溜め息をついた。
「練習……」
「冬休みは、寒稽古って言って朝の寒いうちからやる稽古が恒例なんだよ」
単語を聞いただけで寒気がするそんな稽古があるんじゃあ俺と遊ぶのは無理か。
「24日は夜の稽古は休みにするから、夕方から何処か遊びに行くか?」
「いいの?」
「いいさ。悠夜兄さんなんか毎年『クリスマスは1日中パチンコを打つためにある日なんだ』って言って2日間姿をくらませてるしな。たまには俺の稽古も休みにした方が生徒も喜ぶだろ」
「やった!」
楽しみ!!
めっちゃ楽しみ!!
クリスマスだから水族館とか行きたいし、シロと並んで映画も見たい。
寒いけど夜景も見に行きたいし、シロん家のクリスマスディナーはケーキとチキンが出るのか気になる。
「でも……」
「でも?」
「道場長が何て言うかな」
「あ……」
道場長ことシロのお祖父ちゃんは本物のお坊さんだから、クリスマスで練習休みますとか言ったら不謹慎だって怒るかな?
「もし、何か言われたら虎太郎に代行をして貰おう」
「そんな事出来るの?」
「沢井流の掟では、兄弟子の言葉は絶対だからな」
悠夜おじちゃんが作ったマイルールだけど、今回ばかりは頼りになる。
「どこ行こうな?」
「水族館と……」
さっき考えた行きたい場所リストを伝えるとシロはびっくりしたように目を見開いた。
「そんなに行けるかな」
「うーん……」
「ま、行けなかったら来年だな」
来年。
来年もシロと居れるんだ。
「来年も行けなかったら再来年行こ」
「そうだな」
来年も再来年も、またその来年もシロとずっと居られますように。
優しいアメイジンググレイスの音色は「大丈夫だよ」と言ってるような気がした。
(完)
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