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沢井家のお正月-3
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「寒っ」
蔵の錠前を開けて中の凍てつくような空気に触れるや否や、葵琉が肩を竦めた。
「ほら、やっぱり寒いだろ。部屋に戻ってな」
「戻らない」
俺の背後にピタッとくっついてポケットに手を突っ込んで来るから身動きが取れない。
「動きにくいだろ」
「動かなくていいじゃん。こっから見て探して見つかったら取りに行こ」
って言ってもな。
蔵の中はセオリー通りごちゃごちゃで遠目に見ても何が何処にあるのかさっぱりだ。
「これ、今日中に見つかるのかな……」
まだ、餅米とこしあんの買い出しも残ってるし、お汁粉を煮込む大鍋も探さなきゃならない。
こしあんってスーパーで買えるのか?
「シロ、寒い」
寒いのはわかるけど俺のジャケットに潜り込むのはやめろ。動きにくいんだから。
「あ、お前セーターも捲ったな」
冷やっとした空気が背中を直撃して身体がブルッと震えた。
「ここ好き。シロの匂い」
おでこか頬っぺたか、ヒートテックの中にまで潜り込んで来た肌は氷のように冷たい。
「こら!」
「シロの背中温ったか~い」
さっさと見つけて帰らないと本気で二人とも正月ずっと風邪で寝込む羽目になる。
「もう……そういう事するやつには、こうだからな」
「わっ!」
クルッっと振り向くと同時にしゃがみこんで、葵琉の脇腹に手の平を差し込んでやった。
冷えきった手の平で脇腹を揉むとキャッと甲高い悲鳴が上がって、思わず背後に目を向ける。
今誰か来たら絶対勘違いされるに違いない。
「ヤだ、シロ、擽ったい~!」
「もうしないか?」
「しない、しない!」
そんなこんなでなかなか作業が捗らない中ようやく見つけた杵と臼は、うまい具合に台車の上に置かれていた。
随分と埃を被っているが、まだまだ現役で通用しそうだ。
大鍋もうまいこと近くにあって、これで道具は揃った。
「明日の朝、また取りに来るか。あとは、餅米とこしあんの買い出しだな」
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