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路地裏の吸血鬼
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犬塚ケイスケが、シルキーを拾ったのは今から丁度、1ヶ月まえの真夜中だった(と、ケイスケは記憶している)。
その日は、綺麗な満月だった。
ケイスケが用事の為にマンションから出て暗い夜道を歩いていると、街灯のない道に差しかかった時、うっという微かに誰かが呻くような声が聞こえてきた。しかし、辺りを見回してみても、声の主らしいものはない。気のせいか、と思い再び歩き出そうとしたとき、矢張り誰かが苦しげに呻く声がする。それで、しかたなく今度は注意深く観察してみると、建物と建物の間に誰かが倒れているのが見えた。近付いた。
「大丈夫か?」
ぷんと血の匂いが濃く香った。ズボンのポケットから携帯を取り出してライトで照らすと、大量の血溜まりの中に男がうつ伏せで倒れていた。
驚いたケイスケは汚れるのも構わず男を抱き起こすと、まだ少年のようだった。
少年の肌は紙のように白く、何度か呼びかけたり揺すったりしてると、固く閉じていた目がうっすらと開いた。
「う……」
「おい、大丈夫か? いま、救急車呼ぶから」
「い、いや、」
119番しようとするケイスケの手首を掴む少年の手は以外と力強かった。
ケイスケが困惑しながら少年を見ると、
「傷はもう治ってんのよ、傷は」
と、やや掠れた声で言う。
「な、何を言ってるんだ? こんなに血が出てるんだぞ!?」
ケイスケの両手には確かに血がべっとりと付いていたし、地面にも血溜りが出来ている。にも関わらず少年は、傷は治っている。などと馬鹿げた事を言う。余りの痛みに混乱しているのか、それとも訳有りなのか――だがしかし、そのどっちでもなかった。
「マジだって。だって俺、吸血鬼だから」
「……は?」
ケイスケは、一瞬、何を言われたのか分からなかった。
吸血鬼? 今、コイツは自分のことを吸血鬼と言ったのか? 吸血鬼だ、皆さん、聞きましたか?! 吸血鬼ですって!
しかし、そんなケイスケの混乱を知ってか知らずか(今なら分かる。この時、シルキーは明らかに楽しんでいた。しかしまァ、それはともかく)、だって本当に吸血鬼なんだから、と言う。また言った! 吸血鬼!
いつまでも混乱している訳にもいかず、ケイスケは少年の体を調べる事にした。事故にでもあったかのようにボロボロに擦り切れ穴の空いたパーカーと履き古したデニムは、だがしかし、血の汚れはあっても、そこから見える皮膚に傷はないように見える。思い切って服を捲るが、やっぱり細身の体に傷はなかった、つまり、『傷は治っている』というのはどうやら本当らしかった。相変わらず肌は白いけれども。
目を丸くするケイスケに、少年は、
「ほらな」
と、にやっと笑った。そして、
「悪いんだけど、なにか食べさせてくんない? もう1ヵ月近く、まともに飲み食いしてなくって、死にそうなんだよ」
そう言って、腹に手を当てながら困った顔をしてみせた。
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