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暴君との日常
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尊は過保護だと思う。
小鳥の通う、暁大学付属初等部から家までは、徒歩10分ほどだ。
だが、尊は毎日送り迎えをする。
今日はいつもより少し早く帰りのHRが終わったので、小鳥は尊が迎えに来るのを待つ間、友人と学校の屋上に来ていた。
「今日はあったかいね~。」
日向のフェンスにもたれかかって座る小鳥の隣、同じくだらりとフェンスに体を預けて、クラスメイトの龍宮アクア(りゅうぐう あくあ)が、両手を上に挙げて大きく伸びをした。
背中まで届く緩くウェーブのかかった柔らかな金色の髪。透き通った海のような水色の瞳に、真っ白な肌。
キラキラした名前を裏切らず、アクアはまるでフランス人形のような愛らしい容姿をした少女だ。
実際、母方にフランス人の祖母がいるのだそうで、良家のお嬢様ということも手伝い、クラスの男子の憧れの的である。
アクアとは、小鳥が2年前にこの学校に編入してすぐに仲良くなった。
小鳥は、2年前の秋から暁に通い始めたのだが、夏休みの課題で提出した読書感想文がアクアと親しくなるきっかけだった。
冊子にして配られた皆の感想文のなか、アクアの書いたものが、自分が書いた内容とそっくり同じだったのだ。
自分が変わった考え方をする子どもだという自覚はあったし、読書感想文も、他の子どもからはずいぶんと浮いた内容になっていた。
だから、そんな自分と同じ感性の人間がいた事に本当に驚いた。
それは相手も同じだったらしく、興味を持ったアクアが話しかけてきて意気投合。数少ない友人の中でも、彼女は小鳥にとって心を許せる大切な存在になった。
とはいえ、二人の性格は正反対だ。
ぼんやりとしてお世辞にも愛想が良いとは言えない小鳥に対し、アクアはいつも明るく元気いっぱいな女の子で、そんな二人が仲が良いのを周囲はとても不思議がった。
確かにアクアと自分では、表面上はおおよそ共通点のかけらもない。
だが、考え方の本質、根っこの部分が小鳥とアクアはこれ以上ないほどよく似ていると思う。
もうすぐ桜も散っちゃうねと残念そうに言いつつ、暖かな陽射しに眠たくなったのか、アクアがごろりと小鳥の膝に頭を乗せて寝転がる。
「昨日も寝るの遅かったのか?」
柔らかい金色の髪を撫でながら尋ねると、気持ち良さそうにアクアが目を細めた。
「んーそうだねぇ。昨日はピアノの後、英会話もあったから家に帰るの遅くなっちゃって。」
家の方針らしく、アクアは毎日数々の習い事をこなしている。お嬢様にはお嬢様ならではの苦労が色々とあるようだ。
「お疲れ様。」
労いの言葉をかけると、髪を撫でる小鳥の手を握ってありがとーと言って眩しい笑顔を浮かべた。
こんな風に、小鳥とアクアはスキンシップが多い。そのため付き合っているとよく誤解されるが、二人の間に恋愛感情はいっさいない。
「そういえば、尊さんまだ告白の返事くれないの?」
アクアとはお互い何でも話す。小鳥は、先日尊に告白したことも話していた。
「返事は俺が高校生になるまで持ち越しになった。」
どういうこと?と、アクアが不思議そうにしていたので、先日の尊とのやりとりを説明する。
「あーそれ私も助(たすく)さんに言われたことある!高校生以下は圏外だってー。」
尊の恋愛対象は高校生からだという所まで話すと、アクアがバタバタと地団駄を踏んで悔しそうな顔をした。
アクアは、尊の友人である助に片想い中で、毎日熱烈な告白をしているのだが、一向に振り向いてもらえていないのが現状だ。
小鳥の恋と同じく、アクアの恋もそう簡単には実りそうにない。
難しい恋をする同士として、お互いに相談したり励まし合ったりするのが二人の日課である。
「助にそう言われて、アクアは何て返したんだ?」
「高校生の私は、きっととんでもない美人になってるから、絶対助さんを夢中にしてあげるって!」
楽しみにしててねーってほっぺたにキスもしといたよと、アクアは太陽に負けないくらいキラキラと輝く笑顔で得意気にブイサインをきめた。
「…やっぱり、俺たちはよく似てる。」
「もしや、ことりんも??」
頷いて、小鳥も尊に同じような宣言をしたのだと告げると、アクアが嬉しそうに笑う。
ちなみにキスは、ほっぺたではなく口にしたのだと言うと、さすがことりん!と、盛大に拍手を贈られた。
「早く高校生になりたいねー。」
何でもないような話をして、穏やかに時間が過ぎていく。
そろそろ尊が迎えに来るのではないかと、二人で校門付近を見下ろしていると、アクアが尊を見つけた。
「あ、ことりんの王子様発見!」
「…尊は、王子様って感じじゃないだろう。」
王子様なんて、そんな可愛らしいものではないと思う。
「どっちかって言うと、王様だ。それも、とびきりの暴君。」
「あー、ことりん振り回されてるから。」
クスクスと声をあげて笑いつつ、今日も囲まれてるねーと、アクアが尊の周りに集まっている女の数を数え始めた。
尊はモテる。特定の彼女を作る気はないと明言しているのに尊に言い寄る者が後を絶たないのは、やはりその目立つ容姿のせいだろう。
すっきりとした奥二重に、ほんのり焦げ茶の混ざった印象的な瞳。絶妙のバランスで配置された形の良い鼻と唇。
思わず振り返って見てしまうような、人を惹き付ける華のある顔というのは、まさにこういう顔のことを言うのだろう。
しかも、散々遊び回っているにも関わらず、1度も染めたことのないらしい癖のない短く整えられた黒髪の効果で、見た目だけならかなりの爽やか好青年といった印象。
更には、180㎝を優に越える高身長で、小さな顔に、長い足。程よく筋肉の付いた引き締まった体。文句なしのモデル体型だ。
実際、尊はモデルをしていて、それもモテる要素の一つなのだろう。
まったく、嫌みなくらい女の子の理想を詰め込んだような男だ。ただし、理想と言えるのはあくまで容姿に限ってである。
中身は何かと残念な男だ。
特定の彼女は作らず来るもの拒まず。あちこち手をだした結果、尊の周りは言い寄る女でごった返し状態。(多分、裏では男にも言い寄られている。)
今日も今日とて、何人もの女に囲まれる尊の姿に、小鳥はそっと溜め息をついた。
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