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暴君との日常4
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「清峰弟~っ!兄貴に放っとかれて寂しいんだろ。お兄さんが慰めてやろうか~?」
抱きついてきたのは、尊のゼミの先輩だった。自己紹介をされた気がするが、名前は覚えていない。
先輩といっても、すでに卒業したOBらしく、今日は飛び入り参加らしい。
酔っぱらっているとすぐに分かるふざけた調子で話しながら、ずしりと背中にのし掛かられ、小鳥は眉を潜めた。
「…重たい。」
ポツリと不満を口にすると、先輩は「お~悪い悪い~」と全く悪びれる様子なく言って、小鳥と美羅の間に無理矢理割り込んで座った。
「お前、ちっちゃいもんなー、そりゃ俺が乗ったら重いよなー。」
先輩は、何がおもしろいのか、ずっとニヤニヤ笑っている。
「しっかし、あの清峰が溺愛してる弟っていうからどんなもんかと思ったら、案外普通だなー。」
先輩はしばらく居座るつもりらしく、手に持っていた缶ビールをあおりながら、ジロジロと不躾な視線を送ってくる。
見かねて小鳥を助けようと立ち上がりかけた臣を、先輩に気付かれないようにそっと首を振って制止した。
変に揉めて、アクアや美羅に絡まれでもしたら大変だ。ジロジロ見られるのは気分の良い事ではないが、どうせすぐに飽きるだろう。
さっき助が教えてくれたのだが、この先輩は、昔尊に好きな女を捕られたらしい。
捕られたと言っても、尊が先輩の彼女を奪ったなどという話ではなく、単に先輩の好きな女の好きな相手が尊だったというだけの事だ。
だが、どうやら先輩は尊の事を逆恨みしているようで、皆で出店を回っている間中、憂さを晴らすように尊を目の敵にしていた。
尊は先輩からの当りがどれだけきつかろうと、全くものともせずにかわしていたので、憂さ晴らしの対象を弟の小鳥に変更したのかもしれない。
好きにさせて放っておけば、すぐに飽きてどこかへ行くだろう。先輩の視線を気にせず、ちびちびと綿あめを口へ運ぶ。
口の中に広がる甘い味を堪能していると、ぐいっと強引に肩を捕まれ、体を先輩の方へ向かされた。
「…前言撤回。お前、結構可愛い顔してんだな。」
綿あめを頬張ったまま、変な事を言い出した先輩の顔ぼんやりと見た。
先輩の顔は小鳥の目線より上にあるので、必然的に見上げる形になる。
「まわりに居るのがやたらキラキラした目立つ美形ばっかだから気付かなかったけど、お前も可愛い顔してるよな…」
小鳥を見る先輩の目つきが、さっきまでと違っている。ただジロジロ見られている感じではなく、何やら興奮しているような、ギラギラとした視線だ。
遠慮のない手が伸びて来て小鳥の顎を持ちあげた。
やりたい放題の先輩に我慢の限界が来たらしい臣が、小鳥を掴む先輩の手を振り払おうとした時、
「先輩、うちの弟にちょっかいかけないでもらえますか?」
背筋が凍るような冷たい声と同時に、いつのまにやらこちらに来ていた尊が、臣より先に先輩の手を小鳥から引き離した。
あ、ものすごく、怒っている。
声だけでも分かったが、振り返って顔を見て、あぁやっぱりかなり怒っているなと改めて思う。
顔は笑っているのに、目が全然笑っていない。尊はあくまで笑顔を保ちつつ、冷たく凍りついた目で、先輩を見据えていた。
「大人は大人同士、あっちで呑みましょうよ。」
笑顔のまま、これだけ人をすくみあがらせるような圧力を出せる人間は、そうはいないと思う。
口調は穏やかなのに、拒否を許さないような迫力ある尊の言葉に、先輩は不服そうな顔をしたものの、何も言わず大人しく大学生メンバーの方に戻っていった。
「…尊。」
立ち去る先輩の背中に、笑顔も消してはっきりと敵意の籠った視線を送る尊の服の袖をひっぱって声を掛ける。
立ったままだった尊は、さっと冷たい表情を引っ込めて、しゃがんで小鳥と目線を合わせた。
「なんだ?」
「…綿あめ、食べるか?」
「………。この場面での第一声が、何でそうなる!?」
ポカンと呆気にとられたような顔をした後、勢いよく突っ込まれた。
そんな尊の言動が不思議で、小鳥は首を傾げる。
「…甘いものを食べると落ち着くだろう?」
尊は今、ものすごく先輩に苛ついている。あまりイライラしすぎると体に悪い。だから、甘いものを食べてさっさと気持ちを落ち着ければ良いと小鳥は考えた。
小鳥としては、至極自然な流れの提案だったのだが、どうやら尊には伝わらないらしい。
説明しても、眉間に皺を寄せて盛大にため息をつかれてしまった。
「…お前は、もう少し危機感とか警戒心とか持とうな ?」
「…?」
言われた意味がわからず、また首を傾げると、尊が本格的に説教モードになった。
「酔っぱらった男に絡まれてんのに、隣に大人しく座ってぼーっと綿あめ食ってちゃダメだろうが!しかも、ベタベタ触られても無抵抗。逃げるどころか怖がりもしないで…警戒心がないにも程がある!」
次々とダメ出しが飛んで来るが、やっぱり言われている事がいまいち分からず、小鳥の首は傾いたままだ。
「別に、怖くなかった。だから、逃げる必要もないと思った。」
「だーかーらー!怖いと思わなきゃいけない場面なんだって!」
「…どうしてだ?」
小鳥の問いに、眉間を押さえてうなる尊が次の言葉を発するより早く、小鳥が言葉を続けた。
「危なくなったら、尊が助けに来るだろう?」
だから、少しも怖くはなかったし、逃げなければとも思わなかった。
そう言うと、尊はまた呆気にとられたような顔をして、その後困ったような笑顔で小鳥の頭を撫でた。
放っておいている様に見えて、尊は小鳥達の様子をちゃんと気に掛けていた。だから、何かあればすぐに気付いて助けにくると思っていた。尊が居るのに、何を怖がる必要があるというのだろうか。
「あらあら、絶対の信頼を置かれちゃってますね~。」
「尊さん、責任重大だねっ!」
満面の笑みを浮かべた美羅とアクアにからかわれ、尊が苦笑する。
「ホント、目が離せなくて困る。」
困ると言っている割に、尊の表情はどこか嬉しそうだった。
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