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暴君との日常6
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「アクアちゃん、寒いのか?」
こちらに着くなり、尊がアクアに問いかけた。
「うん。寒いねーって言ったらことりんがパーカー貸してくれたの。」
「へ~。ホント二人は仲良いな。」
いつも通りの笑顔で対応する尊には、嫉妬している素振りは見られない。
やはり、やきもちを妬かせるのは無理だったかなとぼんやりと二人の様子を観察していると、アクアに話をふられた。
「パーカー貸してもらっちゃって、ことりんは寒くない?」
「大丈夫だ。」
小鳥は、暑さにはものすごく弱いが、寒さには結構強い。少し肌寒くはあるが、我慢できない程ではない。
だが、応えた後でもしかして寒いと言った方が良かったのだろうかと、今更ながら思い至る。
ここで小鳥が寒いと言えば、きっと尊はあの女子から上着を返してもらうだろう。
それはアクア達の言うような嫉妬心からくる行動ではなく、単に過保護な兄が弟にカゼをひかせないよう気遣っての事だとは思うが。
あの女子には悪いが、尊の上着を奪還できれば小鳥のモヤモヤは少しは晴れるし、小鳥のためにと動いてくれたアクア達の気持ちにも一応こたえられるのではと考える。
だが、すでに大丈夫だと言ってしまった。
どうしたものかとぼんやり考え出すと、尊が背後に屈んで小鳥の手を取り指先を掴んだ。
「大丈夫とか言って、指先冷たくなってんじゃねえか。」
そう言って尊は、小鳥の背中にくっつくようにして腰をおろし、後ろから小鳥を自分の腕の中にすっぽりと包み込んだ。
「俺も実はチョット寒かったんだ。これで二人ともあったかいだろ。」
「…俺は湯たんぽか。」
振り返って尊の顔を覗き込むと、穏やかに笑って頭を撫でられた。
「うっわぁ~そうきたか。」
「予想の斜め上を行ったわねぇ~」
黙って事の成り行きを見守っていた臣と美羅が顔を寄せ合い、ひそひそと感心したような 声をもらす。
小鳥を湯タンポ代わりにした今の尊の行動のどこに感心する要素があったというのだろうか。
「ことりん良かったねー!」
アクアもキラキラと眩しい笑顔を浮かべて、満足そうししている。この様子だと、3人的には尊の行動は納得のいく結果だったようだ。
さっきと同様、小鳥だけが分からなくて首を傾げていると、ふいにアクアが立ち上がった。
「何か、あったかい飲み物買ってくるねー。皆の分も買ってくるから、リクエストをどうぞっ!」
「一人じゃ危ない。俺も行く。」
自販機はそう遠くないが、アクア一人で行かせるのは心配なので、小鳥は付き添いを申し出る。
「一緒に行くのがお前じゃ意味がない。むしろ危険度が上がるだけだ。」
小鳥の申し出はすかさず尊に却下された。でも…と食い下がろうとした小鳥を制して、尊が大きな声で助を呼ぶ。
「おーいっ!助ーっ!何かあったかい飲み物買ってきてくれ!」
ゼミの友人と談笑していた助は、尊の呼び掛けに「はぁ!?」と声を荒げると、ずんずんとこちらに向かってきた。
「何で俺が。自分で行けよ。」
「俺は今、小鳥をあっためるのに忙しいんだよ。」
「何だその理由!?」
「まあまあ、ちゃんと金は払うから。」
「それは当然の事だ!」
頭上で繰り広げられる二人の言い争いを小鳥はぼんやり観察する。
決着は多分すぐにつくだろう。
基本、助はお人好しで人の頼み事を断るのが苦手な優しい男だ。尊の傍若無人な頼みでも、文句を言いつつ結局は聞き入れる事が多い。
「ったくしゃーねぇなあ…で、皆飲み物何が良いんだよ?」
いつも通り、やっぱり助が折れた。しょうがなく引き受けるのに、しっかり皆のリクエストまで聞いてくれるあたり、本当に良い男だと思う。
それぞれ飲みたいものを伝え、助が買いに行こうとした所で、アクアがするりと助の腕に抱きついた。
「私も一緒に行くー!!」
いつもなら隙あらば助にくっついてまわっているアクアだが、今日は大学生同士の付き合いを邪魔しては悪いとあまり助に接触しなかった。
(ただし、助に気がある女子が近づいた時は、毎回突撃していっていたが。)
いつも無邪気で自由に振る舞っているように見えて、アクアはとても空気を読む。助を本気で困らせるような事は絶対にしないし、甘えるにも、時と場合をきちんと考えている。
今日は、相当我慢していたのだろう。今がチャンスとばかりに、これまでの分を埋めるかのように、助の腕にぎゅうぎゅうと嬉しそうにしがみついている。
「分かった、分かったからそんなにくっつくな。」
「やだっ!」
「もうちょっと離れ…」
「いーやー!」
呆れ顔の助にもめげず、アクアはずっと幸せそうに笑っている。
いつもの見慣れた光景だなと、何やらほんわかとした気持ちになる。
その後、くっつき虫のような状態のアクアを引き連れた助が飲み物を買って来てくれて、6人でのんびりとそれを飲んだ。
尊は何度か女子に呼ばれたが、さっきとは違い、小鳥の側から離れなかった。
尊が側に居るからか、尊のジャケットを着た女子を見ても、もうモヤモヤした気持ちは沸いてこない。
尊狙いの女性陣がこちらに来る場面もあったのだが、全部尊が笑顔でいいくるめて大学生メンバーの方へと追い返した。
仲の良い友達に囲まれて、振り返れば尊が居て、頭上には満開の桜。
遠慮なく尊に背中を預けて、ひらひら舞う桜の花びらを眺める。
背中から伝わる温もりが、じんわりと心の奥にも広がっていくような感じがして、幸せだなぁと思った。
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