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小鳥が弟になるまで4
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その音に、すぐさまピクリと小鳥が反応する。
そして、ポテトチップスを抱えたまま、ヒョコヒョコと玄関に歩いて行く。
「小鳥っ!小鳥っ!小鳥っ!たーだーいーまぁぁぁっ~!!!」
ほどなくして、玄関から姫子の元気な声が響いてきた。
尊も玄関へと向かうと、靴もぬがないまま、しゃがみこんだ姫子が、小鳥の腰に抱きついている。
「遅くなってごめんねっ!もう16時間ぶり!?会いたかったぁぁ~!!!」
「おかえりなさい。お疲れ様。」
ギュウギュウと小鳥のお腹辺りに顔を埋め、抱きついたまま離れない姫子に、小鳥もそっと抱き付き返している。
完全に、二人だけの世界。
それを見て、無性に苛々した。
数時間しか一緒に過ごしていないが、小鳥がかなり甘やかされて、大事に大事に育てられている事は、よく伝わってきた。
姫子は、小鳥を溺愛している。
小鳥は、その愛情によりかかって、何をするにも、姫ちゃん、姫ちゃん…。
どこまでも、姫子に甘えきっている。
そんな小鳥に、なぜか、ひどく腹が立った。
いや、本当は、この腹立たしさの原因は分かっている。
きっと自分は、目の前の子供が羨ましくてしかたないのだ。
何の努力もなく、何の見返りも求められず、当然のように母親から愛情を注がれる小鳥。
尊がかつて、欲しくて欲しくて、たくさん努力して…
それでも手に入れられなかったものを、この子供は当然のように持っている。
だから小鳥が、妬ましくて、腹立たしい。
妬ましいと思う自分にも、腹が立った。
しばらく二人を眺めて無言で立ち尽くしていると、顔をあげた姫子と目が合う。
「尊、ありがとう!急に無理言ってゴメンね、でも助かったぁ~!」
「どういたしまして。お疲れ、姫ちゃん。」
そう言って、苛々した気持ちなんて微塵も感じさせないよう、思いきり笑いかけた。
*********
小鳥と会ったあの日から、数日後。
「お前、いい加減にしないとホントそのうち女の子に刺されるぞ。」
大学の学食でラーメンを食べながら、10年来のくされ縁である、 笹枝 助(ささえだ たすく)が、呆れ顔で言い捨てた。
尊は、女ぐせがあまり宜しくない、というか悪い。確実に。女に限らず男でも、好みであれば来るもの拒まずの精神だ。
それは、今に始まったことではないのだが、毎年、桜が散り始めるこの時期になると、いつもに増して、奔放になる。
ここしばらくは、日替わりで女の子の家を泊まり歩いたりしていたので、さすがに見かねて注意してきたようだ。
「何だよ、俺のことがそんなに心配かー?」
にやにや笑って、ふざけて返せば、助が盛大にため息をつく。
「ふざけてないで、ちょっとは真面目に考えろ。お前、今月だけで何人泣かせた?」
「そう言われてもなぁ。俺に落ち度はないと思うぞ。」
尊は、確かに女ぐせが悪い。でも、女の子に対して、不誠実に振る舞っているつもりはない。
女の子は好きだ。純粋に、可愛いと思うし、自分よりも小さくて柔らかな体は、抱き締めると気持ちがいい。
sexも好きだ。尊も年頃の男として、人並みに性欲はあるし、良いなと思う女の子がいれば、そういうこともしたくなる。
でも、それだけ。
可愛いくて魅力的な女の子はたくさんいるけれど、その中の誰か一人を特別に意識することはない。
だから、誰のことも選ぶことはできないし、誰とも付き合わない。
尊は、そう公言しているし、尊と深い関係になった者達は、誰もがそれを承知している。
それに、尊から誘ったことはほとんどない。
誘ってくるのは相手の方で、お互い割りきった楽しいお付き合いをしましょうと、関係がはじまる。
それなのに、しばらくすると、たいていの人間が言うのだ。尊の事が好きだから、やっぱり恋人になりたいと。
そして、無理だと断り泣かれる。その繰り返し。
「最初から無理って言ってるのに、何で付き合いたいとか思うかねぇ?」
尊には、彼女達の考え事が全く理解できない。
「だいたい、俺にフラれた時は、この世の終りみたいに泣いてた子が、1週間後には、別の男と手繋いで仲良く歩いてましたーなんて事とか、しょっちゅうあるし。」
その程度の“好き”を断ったからといって、責められたくはない。
「お前の言うことも分からなくはないんだがなぁ…」
でも、体を重ねるうちに、情が湧くこともあるだろ?と、助が食い下がる。
「それに!確かに尊に寄ってくるのは、遊んでるというか…軽い感じの子が多いから、皆切り替え早いけど、中には、本気で尊の事が好きな子だって居ると思う。」
力説する助を見て、皆、本気の恋とやらは、こういう真面目な男とすれば良いのになんて考える。
「はい、じゃあ助さんに質問です。」
「…なんだょ、いきなり。」
尊から切り出された、突然の改まった質問に、何か嫌な予感でもしているのか助が身構える。
怪訝な表情で警戒心を露にしている助におかまいなしで、言葉を続けた。
「本気の好きとはどういうものか?10秒以内に述べよ。」
「えっ!?いやちょっとっ…そんないきなり哲学的な事聞かれてもっ」
チッチッチ…と、時計の針の音を真似してカウントを始めれば、助が更に焦り出す。
「はい終了!時間切れー。」
答えられなかった罰だと言って、助のラーメンから、チャーシューを1枚奪い、自分の口に放り込んだ。
「あぁぁぁ!せっかく最後の楽しみにとっといたチャーシュー!!ていうか、今絶対10秒もたってなかっただろっ!!」
「まあまあ、かわりに俺の鳴門やるから元気だせ。」
「いるかぁぁー!!」
わーわー喚いている助を無視して、ラーメンを完食し、トレーを持って立ち上がる。
「あ!お前、人のチャーシュー食ったあげく、俺を置き去りにする気か!?」
まだ食べ終わっていない助が抗議の声をあげるが、悪い悪いと笑って、軽く受け流す。
「これからモデルの仕事なんだ。てことで、昼からの講義、代返宜しくー!」
そう言って、さっさと学食を立ち去ると、ふざけんなー!!と助の叫び声が聞こえた。
でも、お人好しの助のことだ、何だかんだ言っても、きっと代返してくれるのだと思う。
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