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小鳥が弟になるまで12
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「なぁ助。」
「なんだ?」
「1、自分が作った料理しか食べないで欲しいと頼む。2、夜中に緊急の用でもなく何度も電話してくる。この二つの行動の意味は何でしょうか?」
「…何お前、遊び相手でそんな子がいんの?」
「いや、そういうんではない。」
大学の休憩室。尊の突拍子のない質問に、助が怪訝な顔をしている。何でも良いから答えろとせかすと、何でお前はいちいちそんな偉そうなんだと文句が飛んでくる。
「いいから、答えろって。」
「…まあ、普通に嫌がらせじゃねえの?」
「却下。多分悪意はねーんだよ。それを頭に入れて、もっかい考えろ。」
「だーもう!ホントいちいち偉そうだなぁ!!」
文句を言いつつも、助は腕をくんで、尊の質問について再度考え始める。本当に、律儀な男だ。
「嫌がらせじゃないなら、独占欲じゃねえの?それも、かなり重度のやつ。」
「独占欲?」
意味がよく分からないので、助に補足説明を求める。
「お前がさっき言った2つの行動をとられて、両方共受け入れたとしたら、食事と睡眠が相手の思いのままって事だろ?」
確かにまあ、その通りかもしれない。まさに、今の小鳥の状態だ。
もし何か食べたいものが目の前にあっても、それが姫子が作ったものでなければ食べられない。
どんなに眠たくても、姫子からの電話の度に目を覚ます。
食事も睡眠も、姫子の手の中という事だ。
「食事と睡眠って、人間の三大欲求のうちの二つだろ?それを、自分の思い通りにしたいなんて、相当な独占欲だと思わないか?」
成る程。助の意見は、もっともかもしれない。
独占欲。
自分とは無縁の感情で、全然思い付かなかった。
「まあとにかく、そんな独占欲が強い子に、遊びで手出すなよ。」
「だーかーらー、そういうんじゃないって言ってんだろうが。」
助は、今の話を完全に、尊の遊び相手の事と決めつけてかかっているようだ。
「嘘つけ!ホント真面目に、早めに手引けよ。そういう子と関係がこじれると、恐ろしい事になるぞ!」
「しつこいなー。俺最近、女遊びも男遊びもせずに、良い子にしてんの。」
嘘ではない。唯原家に通いどおしで、遊んでいる時間はなかった。
「それより喉渇いた。助、コーヒーブラックで。」
姫子の謎の行動についてそれらしい解答も得られたので、さっさと話題を変えようと、休憩室の隅にある自販機を指さした。
「おいこら、何当然みたいな感じで俺をパシリに使おうとしてんだ。」
「助の方が、自販機に近いだろ。」
「いや、ほっとんど距離変わんねえだろ!…もういい分かった、買えばいいんだろ、買えば。」
こういう時、助は諦めが早い。長年の経験から、言い争うだけ無駄という考えが染み付いているのだろう。
「あ、今万札しかないから、助の奢りで宜しく。」
「……お前なぁ…」
言うだけ無駄だとは思っているのだろうが、それでも言わずにはいられない時もあるらしい。
ふざけんな!!と、助の怒号が休憩室に響き渡る。
そこから始まった助の説教を、尊はカラカラ笑いながら聞き流した。
大学での講義終えると、尊はスタジオへと向かった。
今日は、久々のモデルの仕事だ。
小鳥の面倒を見始めてから、もともとセーブしていた仕事を更に減らしたので、前回の仕事からは2週間ぶりといった所だろうか。
ファッション雑誌の撮影で、用意された夏物の服を次から次へと着替え、写真と一緒に掲載する記事の為に、簡単なインタビューを受ける。
順調に撮影は終了して、コーヒーを飲みながらスタッフ数人と雑談していると、その中の一人が、そういえば…と、何か思い出したように話を切り出した。
「尊って、姫子と仲良かったよな?」
話をふってきたのは、カメラマンの縁(えにし)。まだ30半ばの若さで、業界内で一二を争う優秀なカメラマン。彼の撮る写真の出来は、どれも印象的で素晴らしい。
尊は撮影で何度も顔を合わせていて、それなりに長い付き合いだ。お互いの交遊関係も、結構把握している。
「仲良いけですけど、急にどうしたんですか?」
「今日、姫子もこのスタジオで撮影入ってるらしいぞ。さっき廊下で会って、ちょっと話したんだ。」
ドラマ頑張ってるんだってなぁと、話を続ける縁を尻目に、尊は立ち上がる。
「すみません、俺、ちょうど姫ちゃんに用があったんですよ。チョット会いに行ってきます。」
挨拶もそこそこにスタジオを出て、姫子の楽屋を確認しに受付へと向かった。
*****
“唯原姫子 様”
姫子の名前がでかでかと書かれた紙の貼られたドアの前。尊はひとまず、大きく深呼吸をする。
正直、少し緊張していた。今まで姫子に会うのに緊張した事なんてなかっただけに、おかしな感じだ。
唯原家に頻繁に通ってはいるが、姫子とはだいぶ長い間会っていない。
尊が夕方に唯原家を訪ねる時には、姫子は既に仕事に出ている。そして朝、尊が大学に向かう時間には、姫子はまだ帰って来ていない。
そんな感じで入れ違いになるばかりだった。小鳥の様子について、メールで連絡を取り合ってはいるが、食事や夜中の電話について等、突っ込んだ話はいっさいしていない。
楽屋の前まで来たものの、尊は迷っていた。
首を突っ込むべきではないとは思うが、やはり、姫子の小鳥への接し方には疑問を感じる。
一時は、助の言うように、姫子の一連の行動は小鳥に対する独占欲なのかもしれないと思った。
たが考えてみれば、助の意見は、あくまで恋愛関係に当てはめて導きだされたものだ。
姫子と小鳥…親子関係に当てはめると、どうも、独占欲の一言ではしっくりこない気がするのだ。
小鳥の不登校の原因も気になるし、この際色々と姫子に直接聞いてみようと思っていた所に、今日、思いがけず機会がふってきた。
だが、いざとなるとどう話を切り出して良いものか……
まあ、なるようになるか。
その場の雰囲気に任せようと、適当に腹を括り、ドアをノックした。
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