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小鳥部
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梅雨真っ盛りの中、珍しく晴れた今日の昼下がり。
助は、目の前のかつて見た事のない光景に、ただただ驚いていた。
「頼むっ!今日、小鳥のこと迎えに行ってくれ!礼はちゃんとするから!」
頭を下げ、尊が必死に頼みごとをしてきた。
ずいぶん長い付き合いだが、この男がこれほど下手に自分に頼みごとをしたことがあるだろうか。
この男が、これまで自分に頭を下げるなんて事があっただろうか。
……いや、ない。絶対にない。
せっかく止んでいる雨が…いや、もう雪でも降りだすんじゃないだろうか。
「別に良いけど。」
切羽詰まった様子の尊の頼みを、助はすんなり了承した。
今日は予定が空いているし、そもそも尊の必死の頼みに対して、助に拒否権があるとも思えない。
下手に出てはいても、清峰尊はそういう男だ。
どこまでも、誰にでも唯我独尊を貫く。ただ一人、弟の小鳥を除いて。
尊は小鳥に対しとても過保護で、たった10分の登下校を一人でさせるのは危ないと毎日送り迎えしている。
他人の都合なんてお構いなしに動く尊が、大学の講義も小鳥の送り迎えに合わせられるようとっているというのだから、たいした溺愛っぷりだ。
そんな尊だが、今日はどうしても都合が悪いらしい。
「もう4回生だろ?俺、本気でモデル引退することにしたんだよ。親父にもオッケイもらったんだけど、辞めるなら最後は盛大にとかってお世話になってる雑誌で俺の引退用に特集組むみたいでさ。」
知らないうちに話をまとめられ、今日の午後から3日間みっちり撮影する事が決まっていたのだと忌々しそうに尊が語る。
朝は何とか予定を空けられるが、夕方は撮影が詰まっていて抜け出すのが不可能らしい。
「ん?3日間って…明日と明後日の迎えはどうするんだよ?」
「うん。だから、明日と明後日もお前に頼みたいんだけど。」
「…お前ホント遠慮ないなぁ。」
やっぱり拒否権はないんだろうなと早々に諦め、結局助は3日間の小鳥の迎えを引き受けた。
「でも、3日間くらい一人で登下校させりゃいいのに。」
別に小鳥を迎えに行くのが嫌な訳ではないし、引き受けた後で言うのもどうかとは思うが、尊はやはり過保護すぎると思う。
もう小鳥は今年で12歳だ。たかだか10分の登下校に何をそんなに心配する必要があるのか。
呆れぎみにそう言えば、もの凄い勢いで尊から反論が飛んできた。
「10分の登下校でも侮れないんだよ!小鳥の可愛さは犯罪を誘発するんだぞ!?」
「……。」
尊の兄バカすぎる発言に何の言葉も出なかった。
きっと今自分は、ひどく冷めた視線を尊に送っていることだろう。
「あ。信じてないだろ…何だその残念な人を見るような顔は。言っとくけど、兄バカとかじゃなくて事実だからな。あいつ、危ない人に好かれる確率が何か異様に高いんだよ…」
そこから尊は、小鳥に降りかかった数々トラブルを助に長々と語って聞かせたのだった。
*****
約束通り初等部が終わる時間に合わせ、尊は小鳥を迎えに向かった。
小鳥に会うのは、花見以来になるので中々に久しぶりだ。
歩きながら、助は大学での尊の話を思い返す。
尊いわく、小鳥には何故か危ない人が寄ってくるらしい。それも、かなり頻繁に。
おそらくラブレターだと思われる気味が悪い手紙を学校で貰ってくるのは日常茶飯事。
行きつけのコンビニの店員がいつの間にかストーカーになっていて、防犯カメラの小鳥の映像だけを大量に集めていただとか。
去年参加した絵画教室で、個人授業だと呼び出され講師に押し倒されただとか。
他にも色々聞かされたが、どれもにわかには信じがたい話だ。
助から見ても小鳥は普通に愛らしい少年だとは思う。だが、目を見張るような目立つ美少年というわけではない。
小鳥がそれほどまでに危ない人間を惹き付けるとは、話を聞いた今でも思えなかった。
アクアや美羅のような、めったにいないレベルの美少女なら分からない話でもないのだが。
「あっ!ホントに助さんが迎えに来たー!たーすーくーさぁーんっ!!」
初等部の校門に着くと、助が今しがた頭に思い浮かべていた二人の少女が待っていた。
アクアが手をぶんぶん降りながら駆け寄って来て、ぴったりと腕に抱きつく。
「今日も大好きですっ!!」
「はいはい、ありがとう。」
毎日繰り返される、天使のような笑顔を振り撒きながらのアクアからの告白に、助もいつも通りの返事を返す。
何故か助はこのフランス人形のような美少女にいたく気に入られていて、熱心に言い寄られている。
「こんにちは助さん。小鳥のお迎えですよね?小鳥、もうすぐ来ると思うので、ちょっとだけ待ってもらえますか?」
にこりと微笑みながら落ち着いた声で美羅に言われ周囲を見渡すと、確かに肝心の小鳥の姿がなかった。
それに、美羅とはたいていセットで居るはずの臣も見当たらない。
「良いけど、小鳥はどうしたんだ?臣も居ないみたいだけど…」
「ことりんはチョット呼び出されててー」
「臣は部活です。」
助の質問に、アクアと美羅が二人がかりで答える。
「部活か。臣は確か剣道部だったよな?」
「そうです。でも、今日はそっちの部活じゃないですけど。」
「ん?」
「おっくんは今、小鳥部の活動中だよー。」
…………小鳥部?
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