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小鳥部3
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お迎え二日目。
今日は少し講義が長引き、小鳥を待たせる事になってしまった。
昨日連絡先は交換していたので、lineで少し遅れそうだと送ると、“了解”と小鳥らしい簡潔な返事がすぐに届いた。
足早に初等部へと向かう途中、来客用の駐車場で見覚えのある車を見付け助は足を止めた。
派手な装飾が施された青いスポーツカー。あれは、六道(りくどう)先輩の車に間違いない。
六道は助の 一年上の先輩で、ゼミが同じだった。 卒業した後も時々大学に顔を出していて、この間のゼミの花見にも参加していた。
在学中から尊を目の敵にしていて、花見の席では尊だけでは飽きたらず、小鳥にまで絡んでいた。
傲慢で押しが強く、酒癖も悪い。
酔うとセクハラまがいのスキンシップが酷くて、見た目はそこそこなのに女子受けしない残念な人だ。
正直助も六道に好感は持っていない。出来れば会いたくないので、止めていた足を急いで初等部に向けたのだが…
向かった先の初等部に六道が居た。
下校時間が過ぎて人気のない校門に、何故か六道が小鳥と一緒に居る。
まだ少し距離があるので会話の内容は分からないが、六道が一方的に話しかけているようだ。
小鳥が首を横に振り、何かを拒否するような仕草をしたかと思えば、六道は強引に小鳥の腕を掴みどこかへ引っ張って行こうとする。
「先輩!何してるんですか!!」
慌てて駆け寄り、六道の手を小鳥から振り払う。
自分の背中に小鳥を隠すように二人の間に立って六道を睨みつけた。
「何だよ笹枝~怖い顔して。俺はただ、こいつを家まで送ってやろうとしただけだぞ?今日はまだ迎えが来てないって言うからさ~。」
苛立つ助を気にせず、六道はヘラヘラと笑いながらお前こそこんな所で何してるんだと聞いてくる。
「尊に頼まれて小鳥を迎えに来たんです。そんな訳で、小鳥は俺が家まで送りますので、先輩はお気遣いなく。」
突き放すような敵意を込めた助の物言いに、六道の機嫌が目に見えて悪くなる。
普段なら揉めないようもっと上手くやるが、今はあえて怒らせようとしているのでこれくらいがちょうど良いだろう。
「おい、先輩に向かってその言い方はなんだ!?」
「先輩、大きな声出さないで下さい。ここ初等部の校門ですよ?社会人がこんな所で揉め事起こしちゃまずいんじゃないですかね?」
こちらの思惑通り怒りに声を荒げた六道にそう脅しをかけると、まだ何か言いたそうにはしていたが、舌打ちして去っていった。
「小鳥、大丈夫か?悪い、俺が遅くなったせいで嫌な目にあわせたな。」
六道の姿が完全に見えなくなったのを確認して背後を振り返り声を掛けると、小鳥がゆっくりと首を横に振る。
「助は悪くない。断ってるのに、あの人強引で困ってた。」
助けてくれてありがとうと、小鳥がペコリと頭を下げる。
「今日はお前一人なのか?」
珍しく、たいてい一緒にいるアクア、美羅、臣の誰の姿もない。
「美羅と臣は家の用事で先に帰った。アクアは今、忘れ物を取りに行…」
「ことりーん!お待たせ…っ!助さんだっ!!たすくさーんっ!!」
小鳥が最後まで言い切る前に、忘れ物を取りに行っていたらしいアクアが、助に気づいていつものごとく勢いよく抱きついてきた。
「今日も大好きです!」
キラキラした笑顔で毎日恒例の告白をしたところで、何やら不穏な空気が流れている事を素早く察知したようだ。
何かあったの?と、真面目な顔で聞いてきた。
「花見の時、俺らの先輩で小鳥に絡んでた人が居ただろ?あの人と今チョット揉めてさ。小鳥が断ってるのに、強引に家に送ろうとしたみたいだ。」
「あの人また来たの!?」
アクアがぎょっとしたように目を見開くが、驚いたのはこちらの方だ。
「おい、“また”ってどういう事だ?」
小鳥とアクアは顔を見合わせた後、困ったように眉を寄せ、小鳥がポツリポツリと話し出す。
「…少し前から時々来てるんだ。何か、初等部の職員に知り合いが居て、その人に会いに来てるらしい。」
でも、知り合いが誰なのかは聞いても教えてくれないのだとアクアが付け加える。
「それで、六道先輩…あ、あの人六道っていうんだけど。六道先輩に、今までも何かされた事は?」
「今日みたいな事はなかった。たいてい、少し話したらどこかへ行く。」
何もされていないなら良かったが、知り合いに会いに来ているという話は本当かどうか怪しい。
嘘だとすれば、六道の目的が気になる。
「確かに話すだけだけど、あの人ことりんにベタベタ触りすぎ。お花見の時もそうだったけど、話ながら肩組んできたりとか。」
同性なのだから肩を組むくらい普通なのかもしれないが、何か嫌な感じがするのだとアクアが心配そうに言う。
「しかもあの人、狙ったみたいに私たちが校舎の外に居る時にばっかり来るんだよね。」
アクアによれば、放課後に花壇の水やり当番をしている時、小鳥の所属する美術部が外で活動をしている時などに、まるでどこかで見はっていたんじゃないかと思うほど、タイミング良く六道は姿を表すらしい。
校内までは部外者は気軽に立ち入れない。校内に居る時間の方が圧倒的に多い小鳥達が、そう頻繁に六道に出くわすのは確かに不自然だ。
偶然だと言われればそれまでだが・・・
「ことりん、六道さんが時々学校に来る事、尊さんには?」
「…言ってない。」
「だよねぇ。」
特に害があったわけではないので、尊の耳には入れていなかったのだろう。だが、さすがに今日の事は尊に報告する方が賢明だ。
「また絡まれても困るし、帰ったら尊に今日のこと伝えておくか。」
「ダメだ。」
助の提案をすぐさま小鳥が拒否する。
「…話すのは、明日以降にしたい。」
話すなら早い方が良い。何故、今日ではいけないのか。
「あー。尊さんの撮影、明日までだもんねぇ。」
アクアには、小鳥が今日尊に六道の事を話すのを渋る理由が分かったらしい。
アクアの一言で、助にも小鳥が何を考えているのかだいたいの見当がついた。
「明日までは撮影で忙しい。余計な心配かけたくない。」
予想通り、小鳥の口から尊を気遣う言葉が出てきた。
小鳥の気持ちも分かる。分かるが、安全面を考えるとやはり一日でも早く話しておくべきだと助は思う。
「でもな、小鳥…」
「明日になったら話す。」
説得しようにも、小鳥は頑なに今日はダメだと言って譲らない。
雀色の澄んだ目で“お願い!”とでも言いたげにじっと見つめられ、結局助が折れた。
「わかったわかった。」
まあ、今日か明日かの差くらいなら問題ないだろう。
「ことりん、明日は絶対尊さんに話してね?」
心配顔で、アクアが小鳥に小指を差し出すと、小鳥も同じように小指を差し出す。
「約束する。」
指切りをする二人を見守りつつ、六道が明日は姿を見せないことを願った。
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