アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
怒れる暴君
-
放課後、いつも通り小鳥は校門で迎えが来るのを待っていた。
今日で尊の撮影は終わる。
この3日間、尊はだいぶ無理をしていた。ハードな撮影スケジュールのなか、大学での課題をこなし、小鳥の面倒もみていたのだから当然だ。
少しでも休んでもらおうと、食事の用意や朝の見送りはしないでも良いと申し出たのだが、放っておく方が心配で体が休まらないと言われて却下された。
尊は体の不調があまり顔に出ないので分かりにくいが、結構疲れが溜まっていると思う。
少しでも休んで欲しいと思いつつ、無理をしてでも自分の事を構ってくれるのが嬉しかったり、そんな事を思ってしまう自分が申し訳なかったりで、小鳥としては少し複雑な3日間だった。
だが、助と交友を深められたのは良かった。思っていた通り、面倒見が良くてお人好しで…とても優しい男だった。
さすが、アクアが心の底から好きになる人間だ。今日も、アクアは助の迎えを一緒に待ちながら、彼に会えるのをとても楽しみにしていた。
つい先ほど隣のクラスの男子に呼び出されて今この場にはいないが、多分相手の用件は告白だろうから、すぐに断って戻ってくるだろう。
美羅と臣は今日も家の用事で先に帰ったので、小鳥は一人だった。
もうすぐ助がこちらに着く。
戻ってきたアクアが、いつも通り幸せそうな笑顔で助に抱きつく姿が目に浮かんで、ほのぼのした気分でいると、派手な装飾の施された青い車が目の前に停まった。
運転席側の窓が開いて、乗っている人物が顔を出した瞬間、嫌な胸騒ぎがした。
「よう!小鳥~。また迎えが来るの待ってんのか?」
あまり好感の持てないニヤニヤとした笑みを浮かべ、六道が車から降りずに話しかけてくる。
まさか、昨日の今日でもう会うことになるとは思わなかった。今まで2日続けて会うことなどなかったのに。
「…そうだ。もうすぐ助が迎えに来る。」
「へぇ、今日も迎えは清峰じゃないのか…」
出来ればあまり関わり合いたくないのだが、無視するわけにもいかず答えれば、半分独り言のような呟きが六道から返ってきた。
多分、油断していたのだと思う。
たまたま今は人気がないが、ここはいつ誰が通るとも知れない初等部の校門の前で。
まだ日も高くて明るくて。
六道は、車から降りる気配はなくて。
もう少ししたら、助とアクアがここに来る。
そんな理由から、小鳥の警戒心は緩んでいた。
だから、「ここに行きたいんだけど、お前分かるか?」と聞きながら運転席の窓から地図を差し出され、六道の車に近寄ってしまった。
それは本当に、一瞬の出来事だった。
小鳥が手の届く範囲に来ると、六道は運転席のドアを開けて小鳥を車の中へ引きずり込んだ。
抵抗する間もなく、口に薬品の染み込んだ布のようなものを押し付けられ、意識が遠退いていく。
意識を失う直前、あの花見の時と同じギラギラした目をした六道の顔が見えた気がした・・・・・
*******
「助!」
「尊!?お前撮影はどうしたんだよ?」
小鳥を迎えに初等部に向かっていると、後ろから尊が走ってきた。
「機材の調子が悪くて明日に持ち越しになったんだよ。」
尊は、だから俺も小鳥を迎えに行くと言って、助の隣にならんで歩き出す。
どうせすぐに助が連れて帰るのだから家で待っていればいいものを、わざわざ一緒に迎えに行くあたり、尊はやはり小鳥が可愛くて仕方ないのだろう。
「一応さっきお前にline送ったんだけど、やっぱ読んでなかったのか。」
言われて携帯を見ると、確かに尊から、撮影が延期になったので今からこちらに向かうと連絡が来ていた。
「本当だ…ん?小鳥からも何かline来てるな。」
小鳥とのトーク画面を開いて、助は固まった。
「ーーなっ!?」
“友達と遊んで帰る。今日の迎えはいらない”
「おい!尊、これ…」
携帯の画面を見せると、尊の表情がいっきに険しくなる。
「…あり得ないな。あいつが、俺に何の確認もせずに寄り道なんてするはずがない。」
ぞっとする程冷たい尊の声に、小鳥に何かあったのだと確信する。
初等部へと急ぎながら、とにかく1度電話をと通話の発信ボタンを押そうとした所で、アクアから着信が入る。
『もしもし助さん!?今、ことりんと一緒に居るっ!?』
電話に出るなり、切羽詰まった様子のアクアの声がスピーカーから流れ出した。
助が返事をする前に、尊に横から携帯を取られる。
「もしもしアクアちゃん?小鳥に何かあったんだな?」
尊は、2、3言の短いやり取りだけで電話を切り、自分の携帯を操作しはじめた。
「すぐアクアちゃんがここに来る。事情を聞くのは会ってからだ。」
淡々とそう言う尊の目は、見たことのないくらい冷たい色をしていた。
5分もしないうちにアクアと合流すると、彼女は携帯の画面を助と尊に見せた。
開かれていたのはlineのトーク画面で、そこには小鳥からのメッセージ。
“悪い。先に帰る”
と、またしても簡潔な文章が表示されている。
「一緒に助さん待ってたんだけど、ちょっと離れた隙にことりん居なくなってて。そしたら、このlineが来て。」
小鳥が勝手に帰るなんておかしいと思い、すぐに電話をかけたが繋がらず、助に確認の連絡をしたのだと説明するアクア。
先程のような切羽詰まった感じはなく、しっかりとした口調で話してはいるが、表情に焦りがにじみ出ている。
「小鳥の携帯にはGPSが付いてるから、場所は特定できる。」
尊の携帯には既に小鳥の位置情報が表示されているらしく、今からそこに向かうと言う。
「俺も行く。」
「私も!」
そうしていったん尊の車を取りに清峰家に寄り、3人で小鳥が居ると思われる場所に向かう。
だが、小鳥の携帯がある場所に小鳥が居るとは限らない。もし、小鳥が誰かに連れ去られたのなら、助達に連絡をした後、携帯だけ捨てられた可能性だってあると、アクアが不安点を指摘する。
「尊、ちょっと位置情報見せてくれ。」
運転中に、今はナビの役割をしている携帯を借りるのは悪いとは思ったが、どうしても気になる事があり尊の目線に固定されていた携帯を取り外す。
「やっぱり…尊、多分小鳥の居場所はここで間違いない。」
「…何か心当りがあるのか?」
制限速度を完全に無視したハイスピードで車を走らせながら、尊が一瞬だけこちらに視線を寄越す。
「この場所、六道さんの住んでるマンションだと思う。」
携帯に示されている住所は、以前酔い潰れた六道を送った場所と同じだった。
少し前から六道が度々小鳥の前に姿を見せていたこと、昨日は無理矢理連れていかれそうになった事を尊に話し謝罪する。
「黙ってて悪かった。」
「…ごめんなさい。」
助の後を追うように、アクアも心底申し訳なさそうに謝る。
「…二人が悪いわけじゃない。それに、心配かけたくないとか言われて小鳥に口止めされたんだろ。」
尊は、助達を責めることはなかった。
だが、六道について話を聞いてから尊の纏う空気は剣呑さを増して、側に居るだけで恐怖を感じるほどだ。
「…やっぱ、花見の時点で徹底的に潰しとくんだった。」
物騒な呟きの後、尊はアクセルを踏む足に更に力をこめた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
46 / 233